本当に不可解なおとぎ話

□人魚姫
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アンデルセン童話として有名な「人魚姫」は、童話にしてはあまりにも悲しい結末だった。

まるっきり子供向けの物語というより、ある程度大人の事情が解るようになった小学3〜4年くらい向けの話なんだろうなぁ…

ハッピーエンドが当たり前だったハズの童話なのに、自分の命と愛する人の命を天秤に掛けられて、自分の命を投げ出すなんて昼メロみたいなラストを受け入れて大人になって行くんだろうなぁ…

人魚の王国では、15歳になって初めて海面へ出る事を許される。
人魚姫も15歳になって、初めて出た海面で難破船と遭遇し、海に投げ出された王子様を助けた事をキッカケに王子様に恋をした。

もう一度王子様に会いたいと願う人魚姫は、魔女の元を訪ねた。
そこで人間の足を手に入れるのと引き換えに声を失なわなければならない、さらには王子様と結婚できなければ泡となって消えてしまうと聞かされた。

声を失ってしまえば、自分の想いを伝えらるない。

別の女性をアノ時の命の恩人と勘違いした王子様は、その女性と恋に落ちてしまった。

もし、声が出せれば自分こそが命を助けた張本人であると伝えられた…

愛する人を前に、それ以上近づけずただ見守る事しかできない。

全てを覚悟していたとはいえ、これほど苦しいものなのかと人魚姫は思った事だろう。

王子様の心臓を刺せば、元の人魚に戻る事が出来たのに、姫は王子様の幸せを願い己の命を捧げる覚悟を決めたのだった…


悲しい結末である。

愛のためとはいえ、住み慣れた水中を離れ、陸に上る事だって相当な覚悟が必要だったのだ。

しかも、声を失ってまで…
それは同時に真実を伝える事も、想いを伝える事も失う。
それでもただ、愛する人にもう一度会いたい、せめて見守るだけでもと彼女は決断したのだ。

よく考えれは、筆談という手段も有った。

人魚姫がそれに気づいていたのか、いなかったのかは解らないが、彼女はそんな安易な手段は選ばなかった。

それをしてしまって、王子に「あ〜君だったの」などと簡単に理解されては悲劇的なストーリーに水を注してしまう…

人魚姫が王子を追って人間になる決意をした時、もはや悲劇的な結末は避けられないと人魚姫自身、覚悟していたためだろう。


人魚にとって足を付けるという事は、同時に魚の下半身を失う事になる。
普通の魚類のフォルムから想像すると、人魚の魚の下半身とは魚の胴体であり、ソコにはそれなりの内臓が詰まっていたと考えられる。
基本、筋肉で構成された脚とは、生体部位としてあまりにも役割が違い過ぎる。

魚類から両生類や爬虫類へと進化した際、脚に進化したのは魚の下半身ではなくヒレである。
魚の下半身はそのまま尻尾に進化した。

つまり、人魚に脚を付けるという事は、魚の下半身が人間の脚に変わるのではなく、魚の下半身が消えて人間の脚が生えてくると考えるべきなのだ。

魔女がどんな魔術を施したか解らないが、普通に手術した場合、かなりの大手術だったと思われる。


人魚の生態については詳しくは知らないので、話の中から推測するしかないが、15年も潜水生活をしていたという事はエラ呼吸であった事は間違いない。

魔女が人魚姫に施した陸上生活対応への改良は、足を着ける事だけ…
呼吸器系はそのままであった訳だ。

エラ呼吸とは、水を口から吸い込みフィルターを通して水の中に溶け込んだ酸素だけを取り込み、炭酸ガスと水をエラから吐き出すという呼吸である。

エラ呼吸は、空気中で全く呼吸できない訳ではない。
しかし、気圧は水圧ほどの圧力が無いため、陸に上がった魚の呼吸は極めて困難となる。

肺呼吸の場合は、横隔膜の運動によってそれをスムーズに行うのだが、人魚姫にはそういった改良は施されていない。

つまり人魚姫は陸上で生活している間、水中生活以上に口とエラをパクパク激しく動かす必要がある。


ところで人魚にエラが有ったと過程した場合、どこに有るんだろう?

映画やマンガなどで、人間にエラが有るという設定の場合、たいてい顎の脇辺りに有るのが定番である。

だがその場合、肺動脈的な極太の血管が顔面や首筋を通る事になるしなぁ…

エラはエラだけ有っても仕方がない。
エラから取り込まれた酸素を全身に送り、また、全身から排出される炭酸ガスをエラへ戻すために、循環器すなわち心臓とを繋ぐ動脈や静脈との連結が必要不可欠なのである。

半魚人ならともかく人魚にソレはちょっと…

それに、あまりにも心臓から呼吸器官が離れ過ぎてしまうため循環器系の負担が半端ではない。

本来、呼吸器系の中枢たる肺(又はエラ)と心臓は隣り合わせくらいに存在していなければならない。

だとしたら、エラは人間の場合の肺と同じ位置、つまり胸か脇の下辺りが望ましい。

あくまでも顎の脇だと言い張るなら、心臓も頭蓋骨の中に有った方がいい。

動物の心臓の大きさは、その動物の平均体重に比例している。
人間とほぼ同じくらいの体格をしている人魚の心臓がスッポリ収まってしまうほどの頭蓋骨って…


人魚とは、上半身は人間で下半身は魚であると伝えられている。
だが本来、生物として重要な器官の比率が高い上半身だけに、水中生活を基本とする人魚の上半身は、まるっきり人間という訳ではないようだ。

そんな事さえ忘れさせてしまう、愛の力はやはり偉大なんだなぁ…

【注釈】
↓[魚類から両生類や爬虫類へと進化]
我々脊椎動物は大きく分けて、水中でしか生活できない魚類、陸上進出を果たしたが水辺を離れられない両生類、完全に陸上進出を果たした爬虫類の三つになる。
この三段階の進化が生物学上の脊椎動物の大きな進化で、爬虫類から哺乳類や鳥類への進化は、それほどたいした進化ではなく、ある意味、哺乳類や鳥類は爬虫類の一部といっても過言ではない。
完全に陸上進出を果たした脊椎動物の内、哺乳類や鳥類の特長は答えられても、爬虫類の特長はイマイチ答えられないのは、完全に陸上進出を果たした脊椎動物の基本形態が爬虫類だからなのだそうだ。

↓[魔女がどんな魔術を…]
この魔女、人魚姫に「付けた足で地面を歩くと、ナイフを踏む様な痛みがする」と説明していたが、この説明はどうかと思う。
確かに、歩く度にナイフを踏むなど、想像を絶する痛みである。
しかし、そう思うのは我らが人間だから。足が付いており、何かを踏んだ経験が有るからだ。
もともと足が無かった人魚姫は間違いなく人生で一度も足で何かを踏んだ経験が無く、少なくともこの説明を受けている段階では「踏む」という感覚自体よく理解できなかったのでは?
足の痛みを足の無い人に説明するのに、足の痛みで例えるのはいかがなものか?
普通の人間が尻尾を掴まれたサイヤ人の感覚を理解できないのと同じで、ハナっから付いてない部位の痛みなど、どう説明されても解らないのである。
魔女がいくら力説しても、人魚姫は話半分程度の理解で承諾したのではないだろうか?

↓[肺動脈的な]
心臓から出発した血液が肺を通過し、取り込んだ酸素を全身へ送る為の重要な動脈。
エラ呼吸の動物の循環器とエラを繋ぐ血管を何と言いのかは知らないから、とりあえず「肺動脈的」という表現を使わせて頂きました。



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