天地開闢
□眠り
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夜更けの薬鴆堂に、長い銀髪をなびかせてリクオが降り立つ。
鴆にはあらかじめ来る事を伝えておいた。だから部屋に鴆が居なかろうと、リクオは上がり込んで遠慮なく寛いでいた。ふと鴆の文机を見れば、粉薬の包みがひとつ。
「…いつもの、か?」
昼の姿のリクオは二日酔いをすると聞いた鴆が、いつも用意してくれる漢方薬だろうか。悪酔いを防ぎ、酒の分解を助けてくれる薬。
リクオは疑いもせず包みを開けると、置きっぱなしの鴆の湯呑みの番茶で流し込んだ。なんとも言えない薬臭さが鼻を通り抜けると、襖が開いて鴆が顔を見せた。
「よぉリクオ、お待ちどう…」
「鴆」
リクオが振り向けば、鴆が一升瓶と盃を手に立っていた。……が、何やら、表情が堅い。
「リ、クオ、おめぇ…ソレ飲んだのか!?」
焦るような様子の鴆に、リクオは顔色ひとつ変えず。
「あぁ、飲んだけど……いつもの薬だろ?番茶で飲んだらまずかったかぃ」
「番茶なんか関係ねーよ!それぁお前……媚薬だぞ!?」
「ビヤク?」
どうやら媚薬が何なのか知らない様子の若頭に、鴆が説明すること約2分。
「はッ、効くかよ、ンなもん」
鼻で笑う若頭は怖いもの知らずなのか、それとも鴆の薬師としての腕を見くびっているのか。
「オレぁ知らねーぞ、アンタが勝手に飲んだんだからな」
「つーか、鴆こそまぎらわしい事すんなよ」
「包みがいつものと違うだろがっ」
良く見れば、いつもの薬が白い紙に包まれているのに対して、今日のはやや桜色をしている。
「あぁ…、ま、考えたってしゃあねえよ。飲まねえかい」
「ったく、おめーはよ……」
呆れ顔の鴆から盃を奪い、リクオは笑ってみせた。
しばらく盃を傾けながら静かに語り合い、冗談を言い、体に触れ合う。いつもと同じ……、と、言いたいところだったが。
「……、はぁ」
リクオがため息をついた。
「どうした?酔ったか?」
鴆の察しの良さが、この時ばかりは恨めしかった。
リクオは鴆から顔を背ける。
心臓が高鳴り、体が、血が、熱く疼く。
「……んでも、ねえよ」
まさか、媚薬か?
そんなふざけた薬が効くもんか。効いてたまるか。
リクオがそう思うほど、心臓の脈が速く打ち始め、顔が体が火照りだした。
「リクオよぉ」
突然後ろから抱きすくめられて、リクオの体が大袈裟に跳ねた。
「ぜッ……!!」
「効いちまったんじゃねえの」
鴆は楽しげに笑みを浮かべ、リクオの耳に唇を寄せて囁く。それだけなのに、背中がゾクゾクと震えあがった。
「んな、事、あるわけ…!」
「そうかい……ま、それはそれ、リクオ……しようぜ」
首筋を舐められて、思わず悲鳴をあげそうになった。いつもより敏感になっているらしい。
「効いちまったもんはしょうがねえよ、せっかくだから楽しんだらどうだい?」