天孫降臨

□電車
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遊びに行った帰り道。
電車の揺れは睡魔を誘う。それは抗いがたいもので、目一杯遊んだ後は特に、だ。

翔も例に漏れることなく、立ったままだと言うのに船を漕いでいた。吊り革に掴まった手はふらふらと頼りなく、今にも外れてしまいそうだ。

 あまりにも危ういその動きに見かねて、隣に立つ祐がそっとその体を自分へと寄り掛からせた。
最近では思春期真っ只中のせいか、通常ならこんなことをすれば全力で抵抗される。だが今はよほど眠いのか、つり革を掴んでいた手を離し、おとなしくその体を預けてきた。

しかも幼子が親にしっかりとしがみつくように腰に腕を回す。
「おい、翔。本気で寝るなよ?」
 その祐の言葉に答えようと何かが翔の口から出てくるが、それはまったくもって意味をなしてない。
 そんな翔の様子に苦笑しながらも、愛しさが溢れてくる。

 安心出来る場所だと全身で告げられているのだ。

 今も昔も幼い頃から態度で示されるあらんかぎりの信頼にどれだけ助けられてきたのか、言葉で言い表わすことなど出来ない。

その思いを眼差しに乗せて、崩れ落ちそうな翔の体を祐の腕が支えていた。

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