トライシクル

□定義と現実の秤
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「は?なんでだよ」


仁は顔をしかめて絶句する。二言目には「クソ!」とでもつぶやきそうな唇を噛み締めながら。

ほの暗く、コンクリートだけで造られた彩度のない部屋に仁はいた。背後にある無機質な壁に頭をつけるたびに冷たさと寂しさが伝わってくるような気がする。


思えば少し前に、仁はガタイの良い男数人によってこんな狭っくるしい部屋に運び込まれ、手足を縛られて放置されたままなのだ。

気がつけば灰色一色の薄暗い部屋。どこからか雫がしたたり落ちる音と共に、何度も騒ぎ立てたり助けを呼んだりしたが、それはたった数分で打ち切られることに。今では沈んだ表情の仁の顔が静寂の闇にぼんやりと浮かび上がるだけ。


もはやどのくらいの時間が経ったのかもわからなくなった頃、仁は今まで起きたことを頭の中で懸命に整理し始めた。だが、衰弱した仁の頭はもうろうとしてうまく思考回路を活用できない。


やがてまぶたが自然と重くなり、くすんだグレーの空間から何も見えない闇へと逃げ込む。今までの疲労と体力の消耗がピークに達したからか、呼吸数はどんどん少なくなり、最低限の長く深い呼吸へと変わる。

仁のまどろみはやがて記憶から形成された幻を伴い、深い眠りへといざなった。
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