輝いた空
□ある夏の日
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気がついたら、田舎にいました。
詳しく言えば獄寺・山本・私の三人で海へ行くことになり、
バスを乗り過ごして自然あふれる田舎に着いてしまった。
うん。空気がおいしい。
「ふざけんなよ、野球バカ!?どこなんだよ、ここはっ!!」
「すげー田舎なのな」
「笑ってんじゃねぇよ、馬鹿っ!」
「まー落ち着けって」
怒鳴る獄寺を山本が落ち着かせようとする。
私はそれを横目で見ながら呆然と美しい緑の風景を眺めた。
次のバスまで3時間もあるのにこんな何もない所で、どう時間を潰せばいいんだろうか。
「ごめんな、莉亜。俺が海に行こうなんていいだしたから・・・」
山本はすまなそうな顔をしながら私の頭をなでた。
その時点で本当に謝ってるのか分からないけど、撫でる手が少し心地よかった。
「大丈夫よ。なんとかなるわ」
「おい、野球バカ。これからどうするんだよ」
獄寺がイライラした様子で煙草を吸う。
その姿が、不覚にもカッコいいと思えた。
「とりあえず、どっか行くか」
「そうね。何かあるかもしれないしわ」
と淡い期待を抱いて私たちは歩き出した。
そんな期待は30分もしない内に打ち砕かれたのだけど。
「ちょっと獄寺っ!ここ、どこなの?それに山本はどこに行っちゃったのよ?」
「知るかよ」
「うわー・・・役立たず」
ボソッと呟くと獄寺はあ゛?、と睨んできたけど華麗に無視した。
本当にここはどこなのよ。
迷うし、山本とは逸れるし。いいことゼロだわ。
山本が海とか言うから!
蒸し暑い時期に海なんて単語を出されたら行かざる負えないじゃない!
夏の誘惑は強すぎるのよ・・・・・かき氷、食べたい。
日本に来てからまだ一度も食べてないもの。
「彩牙、じっとしてろよ」
「え、何で?」
「いいから。黙って言うこと聞け」
獄寺はそう言うと私の方へ近づいてきた。
何て言うか、顔が近い。
「ちょ、獄寺・・・!」
「じっとしてろって」
「なんな、ひゃあ!」
今、背中で何かが動いた!
何これ、何なの!?
「背中に虫が付いてるんだよ」
獄寺が私の背後に回って虫を取ろうとしてくれた。
「嘘!や、早く取って!」
「分かったから動くなっての!」
背中を獄寺の指が通ってくすぐったい。
まだ?虫が取れないようでじっとしてるのに。
「獄寺・・・まだ、なの?」
「動くんだよ、この虫が。もう少しだから我慢しろ」
「な、止まりなさいよ虫っ!」
獄寺もさっさと取りなさいよ!
今も背中で虫が動いてると思うと皮膚が泡立った。
「あー、取れたぞ」
「ホント!?ありがとう・・・良かった」
「おう・・・って何で泣いてんだよ」
「な、泣いてないわよ」
慌てて目元を手で隠すと確かに目元が少し、ホントに少しだけ濡れていた。
ホントに少しだけだけどね。
マフィアが虫嫌いなんて・・・恥ずかしすぎる。
項垂れてる私を見かねてかは知らないが獄寺が慌てながら、
「悪かったって。俺がもっと早く、取ればよかったんだよな」
などと言って励まそうとする。
別に落ち込んでるわけじゃない。
ただ、獄寺の様子が面白いからしゃがみこんでるだけで。
あ、項垂れてたのは本当だけど。
「だから泣くなよ。頼むから」
やけに優しい声にさすがの私の良心がいたんだ。
戸惑った顔をみたとき、少しだけドキッとしたのは絶対に言えない。
「だ、大丈夫よ。さ、早く山本を探しましょう」
「おまっ、嘘泣きかよ!?」
「別に騙した訳じゃないのよ?」
「はぁ・・・」
獄寺はしゃがみ込んで安心したように溜め息をついた。
それが、妙に嬉しくて。
心配してくれたんだ、と思うと急に顔が、胸が熱くなった。
ある夏の日、森の中で
(獄寺、)
(あ?何だよ)
(早く行きましょう。日が暮れちゃうわ)
(お前・・・なんか顔赤いぞ?)
(き、気のせいよ!)