※シュナイゼルがロリコン気味で、スザクが女の子。恰好いい殿下ファンは閲覧をお勧めしません。


























「殿下。これなんていいんじゃありません?ローレル大司教様の姪御さま。容姿淡麗、しかも気立てよし!教会を味方につけて悪いことはありませんわよー」

「そうか。で、年齢は?」

「……二十歳。まさに花の盛りですが」

「うん、問題外だな」



またか、とカノン・マルディーニは心中舌打ちする。何回続いたか分からないこのやり取りに、堪忍袋の緒が今にも切れてしまいそうだ。


ふと見遣れば、机の上には大量の写真と身元証明の束が積み重なっていて……それにはカノンも深いため息をつく。


五十一枚もの写真が、また今日も無駄になってしまった……と、頭が痛い。


そんな彼の心中も知らず、淡々と書類の裁可を進めているシュナイゼル・エル・ブリタニアに、カノンはどうしようもない憎らしさを感じた。


カッカッ、と踵を響かせながら彼に近付くと、不敬と分かっていながら、シュナイゼルを憮然と見下ろす。


高圧的な目線に「おや」と、ようやくシュナイゼルも顔を上げた。


「……殿下。貴方、本気でご結婚なさるおつもりがあるんですか?」

「勿論。ただ、好みの女性がいないというだけで」

「そりゃいませんわよねーー!殿下のお目がねにかなう"女性"は!」


カノンが目を吊り上げても、シュナイゼルはいたって涼しい顔のまま、執務を続ける。ぶちっと何かが切れる音。


あーもーー、と、カノンは身体をくねらせながら悶絶した。



シュナイゼル・エル・ブリタニア………ブリタニア本国で、その名前を知らない者はいないだろう。


帝国の白い宰相と名高い彼は、兄である第一皇子オデュッセウスに次いで、皇位継承権を有する事実上のブリタニア帝国No.2である。


それでいて秀麗な容姿なのだから、周囲の女性が放っておくわけはない。しかし、不思議なことに今年で三十歳になる彼には未だに浮いた話がなかった。


きっと理想が高いのだわ、とか、心に決めた女性がいらっしゃるのよ!だの、世間は好き勝手に推測しているが、まあ実際はなんということはない、シュナイゼル・エル・ブリタニアは俗にいう………ロリコンだった。


それは彼の側近中の側近であり、同じ乳を吸って育ったカノンと、変わり者の親友くらいしか知らない極秘の秘だ。


しかし、どうだろう……。


「ね、殿下はどんなお方が好きなの?」と、敬愛する主君に何気なく聞いたその返事が、「幼女」の一言だったとしたら……。



(そりゃあ焦るっつーの!)



まだ幼かったカノンでさえ、卒倒しそうになった。


自分も人のことを言えない性癖(=オネエ)だが、シュナイゼルとは立場も事情も違う。


カノンの場合、家督は一番上の兄が継ぐと定まり、兄にもう世子も誕生しているため、後継ぎ問題も何もない。


だからこそ、カノンはお行儀の良いゲイライフを謳歌していられるのだ。


しかし、シュナイゼルの場合、彼の兄は凡庸だし、その下の弟たちも未だ未熟だ。


父皇帝も最愛の皇妃を亡くして以来、隠遁気味だし、あと数年も経てば、皇帝は後継ぎにシュナイゼルを指名するだろう、というのが世間の見通しだった。


だからこそ大量の縁談が舞い込んでくるのだが、本人の絶対的な希望が「年齢は十五歳以下、胸は申し訳程度に」なのだから、まとまる話もまとまらない。


そもそも、宰相閣下が幼女趣味だという事情さえ周囲は知らないのだから、女を売り物にしているご令嬢たちとの縁談話が、進む筈もなかった。


はああ、とため息をつきながら、(また今日もごめんなさい)と、カノンは写真を一枚一枚封筒に戻していく。


多分、屋敷に帰れば新しい写真がまた届いているのだろう…と、憂鬱だ。


一方のシュナイゼルといえば、今日の分の執務を終えたらしく、「カノン、お茶」と向かい側のソファーにエラソーに踏ん反り返っている。


この馬鹿殿!どうしてくれよう!と思いなからも、「ダージリンティーでよろしいですわね?」とにっこり微笑んだカノンはやはりプロだ。


室内には、ゆらり湯気が立ち上る。


カノンが煎れたお茶はやはり美味い、と笑うシュナイゼルに、カノンはますます呆れた。



「そーいう言葉をですねぇ、私なんかじゃなくてそこいらのご令嬢にいってもらえませんかねえ」

「無理だな。考えただけで寒気がする」

「そういって女性には優しいくせに」

「優しいよ。でもそれだけだ」



そう言い切ったシュナイゼルに、カノンはそれ以上なにも言えなくなる。


この殿下は昔から女性におモテになったし、誰彼構わず優しくされる。


けれど、それは当たり障りのない言葉を掛けているだけで、本当にそれ以上のことは何もしない。


多くの人々は、それは彼が紳士だからだ、というが、カノンは彼が何にも関心を惹かれないだけだと、よく知っていた。


不意に、ああ、と、シュナイゼルが何かを思い出したように苦笑する。


「もうすぐ、マリアンヌさまの命日だね。私の名前を出さないで、今年もまたルルーシュに花を届けてやってくれ」

「……ご自分で行かれたらいいのに」

「私は……執務があるから」


そう笑ったシュナイゼルが、何処か寂しげに見えたのは、恐らく気のせいではない。


マリアンヌ………シュナイゼルの義母であり、初恋だった女性。


シュナイゼルが成熟した女性に一切の興味を示さい原因は、彼の母皇妃にあるとカノンは思っている。


シュナイゼルの母親は美しい女性だったが、それだけに高い矜持の持ち主で、異常なまでに勝ち負けにこだわり、夫である皇帝の愛を他の女と分け合うことなど到底出来ない性格だった。


だからこそ、皇帝の寵愛を一身に受けた第六皇妃マリアンヌを、シュナイゼルの母は激しく憎み、年若い皇妃はでいびり殺されたといってもいい。


思えばそれからだった。


シュナイゼルが、成熟した女性ではなくまだ未熟な少女への関心を示すようになったのは。


女が怖い、とマリアンヌの葬儀から帰ってきたシュナイゼルは、カノンの腕の中でそう泣きじゃくった。


亡くなった第六皇妃、マリアンヌは、母親同士の因縁が嘘のように、いつだってシュナイゼルに優しかった。


それなのに、あんなに優しい女性を、たかだか嫉妬で殺した母を、シュナイゼルは本気で憎み、それ以来、女性そのものから距離を置くようになった。


彼が大人の女性を厭う理由は、亡き母への憎悪と、マリアンヌを失ったことにより精神的外傷だとカノンは思う。


そうして毎年、彼女の命日には花を送る彼に、(女性を愛せないなんて嘘。貴方が愛さないだけよ)とカノンは時折その肩を揺さぶりたくなる。


けれど、はシュナイゼル本人が気づかなければ、それはどうしようもないことだ。


現実に、シュナイゼルは幼女趣味だと口走りながらも、実際少女に手を出したことはない。


ようするに、女性を遠ざけるための予防線なのだと理解しながら、やはりカノンは、この完璧でいて何処か不安定な主君に人を愛する喜びをもう一度知って欲しかった。






なんだか空気が湿っぽくなったのを感じて、「では私はこれで」と去ろうとしたカノンの懐から、一枚の写真が落ちる。


慌てて拾おうとすれば、シュナイゼルの長い指が先に拾い上げた。


写真には、着物姿に金髪の美しい少女が写っている。それをじっと見つめるシュナイゼルに、カノンはああ、と頷いた。


「ブリタニア本国じゃなくて留学先から撮ったそうですよ。確か、日本…だったかしら?彼女はアッシュフォード家の孫娘で、知り合いから紹介されただけなので詳しいことは分かりませんが、確か今年で十七……」

「……じゃない」


何かを呟いたシュナイゼルに、カノンは「はい?」と首を傾げる。そんな彼に、シュナイゼルの美しい紫紺の瞳がカッと見開かれた。


「そっちの娘じゃない!こっちの少女を聞いている!」

「へ?……えええーーー!?」



シュナイゼルが指差した先にいたのは、金髪の少女の背後で恥じらうように一緒に写っている、くるくるの巻き毛が印象的な、美少女だった。



「で、殿下、あの」

「なんだ」

「この子、どう見ても、その」



その次の言葉が、カノンは口に出来ない。


……金髪の少女の発育が良すぎるせいか、はたまた日本人だから若く見えるだけなのか。


蝶々柄の着物を着たその少女は、どう見積もっても、まだ中学生くらいにしか見えなかった。


だからどうした、と、さっきまでの湿った空気が嘘のように、シュナイゼルは鼻で笑う。



「中学生?いいじゃないか!カノン…お前は私の結婚相手への希望を忘れたのか?」

「む、胸は控え目、年頃は……」

「少女!完璧じゃないか」


そう瞳を輝かせたシュナイゼルに、カノンはああ、と心中悲鳴を上げる。


死んだ母のトラウマ?

亡くなったマリアンヌへの思慕?

いやはやなんてことはない。









うちの馬鹿殿は真性のロリコンだったというだけだ。






「さあ、カノン!今すぐ日本へ渡れ!」


「いーーーやーーーー!!!」











ブリタニア皇宮にはただ、カノンの悲痛な絶叫だけが響き渡った…。






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