妄想Text(ネウロ)

□湯
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一級建築士の父が建てた家は、母のたっての希望により庭付き一戸建て。
猫の額ほどの庭だけど、そこでは美和子さんが手入れをしてくれる花が毎年色鮮やかな四季を感じさせてくれる。
冬の寒さを乗り越えてようやく春が来て。
今日みたいな晴天の日には、茶色い地面を塗り替えるように青々した葉が開き、もうすぐチューリップが咲くはず。なんて爽やかな休日の朝!

でも確か庭の花にはあんなでかくて目の覚める青い花は咲いてなかったはずだ。






「………人ん家の庭で何やってるの?不法侵入者」
「おお!ようやく気付いたかミジンコめ。貴様、奴隷ならご主人様を見かけたらまずご挨拶に土下座して地面にはいつくばるべきであろう」
「ってゆーかアンタこそ人の家に上がるならまず挨拶しなよ不法侵入いたたたたたごめんなさいおはようございますご主人様。」

言葉の途中で踏み潰され否応なしに地面にはいつくばる。

よろしい、なんて宇宙の彼方から上から目線の青い人…じゃないや。魔人様は満足気味にその碧の瞳を細める。

こいつの突拍子もない行動はいつもの事でいちいち理由なんて聞いたらDVの数が増えるだけだ。

だけなんだけど。

「…ネウロ?………何?その手にもってるの。」
「見てわからんのか?豆腐頭め。ダウ人具だ」

なんかイントネーションが怪しいとかそんな突拍子も無いこと見て解るかい!とか色々突っ込み所は満載だけど。

「あぁ、んじゃそれは魔界のダウジングなわけね」

総てを飲み込む。例えばその手に握られるダウジングと主張して止まないイナバウワーを限界までやらせているような苦悶の表情に満ちた人型の銀細工がネウロの手の中でクルクル廻っているとかその銀細工から滴る汗が地面に落ちる度に拳程の穴を空けて土をとかしている事とか。そんなんそんなん

「そんなん飲めるか!っつーか穴!庭にスゲー穴空いてる!!」
「ム?喉が渇いたのか?貴様の飲み物なら便器に溜まっているぞ」
「違うわ!トイレの水洗水なんて誰が飲むかああああそれあたしが去年植えた向日葵!トマト!」
せっかく葉を広げ始めた向日葵ちゃんとトマトちゃんはジュワっとゆう音とともに灰になって風になった。
夏になればみずみずしい真っ赤な果実、夏の終りには香ばしい種が実ると楽しみにしてたのに。
BGMは千の風になって。
そして地面はもっと悲惨。軽くクレーターが出来上がっている。
美和子さんのチューリップはかろうじて無事だが。
「煩いぞミジンコ。我輩の崇高な行動にいちいち騒ぐな」
「ムリ!ひっくるめてムリ!ななななななんだってあたしんちの庭でダウジングなんかしてんのよ!」
「決まっているだろう。温泉だ」

うん。何が決まっているのかな?

「温泉?!」
「そうだ。ここに我輩専用の温泉を掘ればわざわざ郊外まで出掛け無くて済むうえにミステリー殺人が毎週のように起こるぞ」
「あぁ、この間の温泉気に入ったんだじゃなくて温泉にミステリー殺人なんて美人姉妹がいたって滅多に起こらんわ!」
「ム?そうなのか?しかし水脈はすでに我が足元にある」

え?まじで?温泉?うちの庭に?

「………そら。掘り当てた」

その言葉と同時に。

地面から滝が噴き出るようだった。

「………………え」

水しぶきは重力に負けてスコールのように降り注ぎ、晴天の空に虹をかける。

「………う、そ」

「………フム」

水しぶきの発信源にいるネウロは無表情のままそれを見上げている。
空の青と水の青、ネウロのスーツの蒼が馬鹿みたいなコントラストだった。



ポカンと弥子はその光景に見とれてしまう。

なんだこれ。家の庭から水が噴き出してる。

馬鹿みたいな青のコントラストを包む虹が綺麗だった。






「………しかしこれでは温泉としては温度が足りんな。カルキ臭いし。所詮ミジンコの庭はミジンコの庭か」



訳が解らない例えを持ち出した魔人は弥子に笑顔を見せてまたフラッと消えてしまった。



相変わらず信用ならない笑顔だな。と弥子が思い出す頃。











「………………カルキ?……………水?」




す い ど う ?















「っつーかこれ水道管破裂だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」















次の日。ニュースの片隅で「女子高生探偵の家に隕石落下?水道管破裂!」と言う記事が載った。
そして翌月の水道料金に目玉が飛び出しそうだった。


End
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