激妄想Text※注意!

□海
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■船長と通訳



『水を樽で20個…腐ってたら末代まで祟るよ。あともうちょっと安く。うんじゃ港に停泊してる[トロイ]って船に運んで置いて』
ヒグチに言われたとおりに注文を付ける。店員が青い顔をしてガクガク首を縦に振るのは後ろの長身の男の巨大な半月刀の圧力だろう。しかし女性店員の居る所ではなるだけネウロを前面に出す。これもヒグチから言われた事だ。
「顔が良いって特だよな」
晩御飯を半分に減らされた元通訳はそうぼやいていた。
『りんご、レモン、オレンジを樽に10、あと根野菜はある?…って、この方が聞いています』
『よ、喜んで!綺麗な旦那さんには葡萄もサービスしちゃうよ!』
『旦那様!こちらで干し肉はいかがですか!魚もございますよ!』
活気のある女将さん達がこぞってネウロに試食を奨める。確かにネウロは顔は良いと思う。海賊に不釣り合いなほど優男だ。しかし彼は血生臭い海賊で、だから金払いも良い。
(綺麗な顔して金持ちで、ちょっと危険な香り…女に苦労した試しなんかなさそうだ)
性格は問題あるけど。手枷は趣味だって言い切ったし。
そう思ってヤコは苦笑してしまう。海賊船トロイに奴隷として連れて来られ、父が必死に仕込んでくれた語学力のお陰で通訳にされてから三日、泣く暇も無いほど忙しい。船乗りなんて船長以外皆ドMだと思うほどに。
船の補修や毎日のデッキ磨き、帆の上げ下げや風が無ければ大合唱で重いオールこぎ。嵐が来れば遭難。女だから。そんな理由で力仕事からは外れていたが、船員達の洗濯や船室の掃除を進んでやった。船長室に閉じ込められるのが嫌だったからだ。
なにより食事が限られている。男性の三倍食べるヤコの分まで食料は備蓄されていなかった為、常に腹の虫は泣きっぱなしだ。幸いササヅカはそんなヤコの為に食料を3倍買い出しリストに載せてくれた。
そう思えば、トロイでの待遇は大分良い。奴隷として売られてしまえばもう生きてはいないだろう。だからこそ、役立たずと烙印を押されたくなかった。
「さて、と。これで大体買い物は終わりかな。船長は何か欲しいものはあるの?」
「ふむ…我が輩、鞭と手枷が」
「無いなら帰るよー」
「チッ。どちらにせよ三日は船の修理が終わらん。その分の宿を取れ」
「はいはい。………あ」
市場から離れようとした時。
目に飛び込んで来たのは輸入した珍しい香料やオイルを扱うだった。
「…なんだ。貴様、食えもせんあんな役立たずが欲しいのか。役立たず同士惹かれあったか?」
「…いや、うんそうだった。いらないよ」
「いるならいる、いらんのならそんな物欲しそうな顔をするな。ウジムシめ」
「つーかそこまで言う?私がいなかったらここに停泊出来なかったんだよ?」
「だったら次の港を目指せば良いだけだ。食料の払いは我が輩が持ってやってるのだ。穀潰しは黙って責務をはたせ」
「なっ…」
「不満があるならこの街に残れば良かろう。大体帆もあげられん女子供など足手まとい、だ…」
「………」
「泣くな。邪魔くさい…」
心底うんざりした口調のネウロがぐるりと天を仰ぐ。
「…じゃ、じゃぁ、泣かせ、無いでよっ…」
「とっとと宿に連れていけ。貴様が動かんといつまで起っても休めんのだ」
「…うん」







市場の人に聞いて、一番ご飯がおいしい宿は丘の上の宿だと言っていた。
そこに案内するとネウロが酷くマヌケな顔をしていた。
「普通の宿だな」
「え?当たり前でしょ。どんな町でも宿は宿だよ」
「フム…あぁ、貴様一応女か。まあ良い」
「?何言ってんの?行くよ」
部屋は一番良い部屋で、と言って市場で買った細々としたネウロの荷物を運びこむ。
そこはヤコが見たことも無いような広い部屋で広いベッドが鎮座していた。
(…あれ?なんか宿の女将に言い忘れたような…)
「ヤコ、貴様意味が解っているのか?」
「ん?ちょっと待って。何か忘れてる気がする。なんだっけ」
その答えは扉から二人分のタオルを運んで来た女将が告げる。
『じゃ、ご飯が終わったら風呂桶もってくるからね。奥さん』



あれ?



『ち、ちちちち違う!奥さん違う!私船に戻る!』
『照れ無くて良いよ。新婚さんかい?良いねぇ初々しくて。じゃ、ごゆっくり☆』
そのウィンクの意味は知りたくない。
「何と言っていた?」
「………船長には関係無い事だよ」
「我が輩、娼館以外初めて泊まるぞ」
「え?何私そこから間違ってたの?」
「随分積極的な奴隷だ☆」
「ウィンクすんな。あんた会話の意味解ってたでしょ」
「何と無く」
「私、船に戻」
「久しぶりに船上のように固くなってないパンが食えるな」
「晩御飯だけはご一緒します」
…評判通り、晩御飯はうまうまだった。
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