激妄想Text※注意!

□熱
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病院で点滴をしてもらって、家の玄関までまたネウロの腕の中だ。玄関先でネウロの腕から下ろされる。明かりのない家を見てネウロが尋ねる。



「暗いな。今日母親は?」
「………出、張………」



震える指で漸く玄関の鍵を開ける。家に入るとネウロもついて来た。こらこら土足土足…じゃ、無いんだっけ。こいつの靴。
薬を探すのも億劫だし、そのまま自室に戻ろう。ネウロはどうするの?と聞くとまったく質問と合わない答えだ。



「着替えて寝てろ」



確かに湿った服は気持ち悪い。言われるままに自室に戻り、厚手のパジャマに着替える。そのまま布団に潜り込んでいると、ネウロが部屋に入ってきた。…オイオイ、ノックくらいしてよ。
突っ込もうとしてネウロを見ると、その手の平に…お盆?



「…あ、お粥…?」
「とりあえず毒は入ってないぞ」



とりあえずって何?
言い方が可愛く思えるなんて熱のお陰かな。有り難く頂く事にする。
卵が入った粥は何て言うか…レシピ通りの味がした。お粥なんて作れるんだね、って聞いたら「先程調べた」との答え。事務所で真剣な顔してたのはこれか。
人の食べ物の味が解らないネウロのお粥は、確かにレシピ通りで簡素だけど、身体が暖かくなる。食欲は無かったけど、土鍋いっぱいに作られたそれを残さず食べた。うん。御飯を食べたら少し元気が出て来た。



「食い終わったら飲め」



薬まで渡される。天変地異でもおこるんじゃなかろうか。
明らかに訝しげな顔をしているとネウロの舌打ちが聞こえた。



「毒は今回は入れてないと言ってるだろう」
「あ、お粥限定とかじゃないの?」
「…ナメクジが…熱が下がったら覚えておけよ」



今、虐めてこないのは多少なりとも体調を考えてくれてるのだろう。
その珍しい優しさが嬉しかった。
病院から貰った薬を飲み込む。
腫れぼったい喉に絡んで飲みづらい。三錠を分けて飲む。
もどかしい動きをネウロはテーブルに肩肘をつきながら見ていた。



「飲んだら寝ろ」
「…うん。そうする。イロイロありがとう、ネウロ。もう大丈夫だから」



ベッドに潜り込んだ後もネウロは事務所に帰らずに部屋に残っていた。
…病気の時、一人の部屋は寂しい。なんとも悲惨な拷問話を嬉々として語るネウロでもいないよりはマシだった。



「………故にな、江戸時代の日本における拷問とは、肉体的だけでなく精神的、周囲の人間をも押さえ付ける役割をしていた。その中で進化した縛りの美学は日本が世界に誇る文化だ」
「…そんなもの誇れるか…」
「人の自由を奪い、かつ精神的な自由をも奪う。更にその姿に芸術を見いだす。これは日本人が他の人種より繊細な感覚を持つからだ」
「…日本人全体を緊縛好きみたいに言うな…」
「何より、緊縛には技術が必要だ。只関節を縛るだけでは意外と簡単に外れてしまう。きつく縛り上げればその先の細胞に血が回らず壊死してしまうかもしれん。現代緊縛において縛られる側に大きな傷を残すのは単なる技術不足と見做される」
「…」
「縄を処理し、受け側の苦痛を調整するのも攻め側の技術による…ヤコ?」
「…」
「寝たのか、ヤコ?ジュート縄は家にあるか?」



無いわ!



最後の突っ込みは声にならず、弥子は意識を手放した。
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