単発文置き場

□割膝で明日をゆく
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「僕は明日も生きてるのでしょうか」

 夕靄の掛かる天の下、それまで日中を無言で通した相方の声を聞く。
 徐々に様子のおかしくなるのを、今自分達の置かれている状況から来るものだとは思っていたが、とうとう限界が口を突いて現れたようだ。
 汚れた床に座り込む身体からは力を感じられず、こちらを窺う目は落ち窪み、まだ年若い筈の相手の顔を随分と老けさせている。
 相手が何かしらの言葉を求めているのは解ったが、こういった時に気の利いた事を言えた試しの無い俺は、今度もまた沈黙で応えるしかなかった。

 暫く片頬で受け止めていた視線が外れ、今度は幾らかくぐもった声が相手の抱えた膝の間から漏れ聞こえてくる。

「今までだってあなたと随分危ない橋を渡ってきましたが、今感じてるやつ、予感みたいに思えるんです……自分は明日、たぶん」

 そこで言葉は途切れ、項垂れた頭が更に膝頭の間に沈む。
 その片足には幾重にも包帯が巻かれ、取り替えもままならないまま、傷口から滲んだ体液で黄ばんでいた。
 
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