単発文置き場

□時計のハリ
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 角都と飛段という男達がこの場へと潜伏する事となったのは、そもそも元よりの予定からあったものではなかった。

 半月程前、繋ぎを取った人売にこの辺りの手配者の目星を付けた書き付けを売り込まれ、大枚と引き換えに得た情報によって一人目二人目三人目、と一気に片を付けた。
 三人合わせて締めて一千万両、堅気の人間ならこれは死ぬまで働いても稼げるかは定かでない額面である。
 しかしその報酬である札束の詰まった鞄は手付かずで何処かへと運び去られる手筈であり、稼ぎ頭である年長者は今や倒した賞金首の三人目が所持していたとある品に掛かり切りとなっていた。

 三人目の賞金首、この男はこの国の役人と繋がりのある者で、領内の盗賊や反対勢力を調査し、場合によっては自らの手で葬り去ってきた男であった。
 今回領内に立て続けに起こった殺人、しかも生半な事では死にそうもなかったとある武陜隊の主格が相次いで殺され、その近従者達も全て息の根を止められていた事により探りを入れに来たのだ。
 だがその動向を件の人売に密告され、侵犯者との接触直前に逃亡を図ったが時既に遅く、三刃の大鎌の餌食となり敢えなくその生涯を幕引く。
 最期の覚悟の顔と共にその男の懐に忍ばせてあった起爆札が炸裂し掛けたが、その策は死角から飛来した黒変の腕によって突き破られ、無念の一言を残して息を絶えた。

 人の目の届かぬ山林の中で手早く持ち運ぶ為の血抜きの処理をしながら、さも手柄を立てたと言わんばかりの顔付きの若者を一瞥した角都は、その首尾にゆっくりと頷き次に倒れ伏した男の所持品を改めるよう指示をする。
 とは言え身を証すような品などないだろう、と考えながら流れ出た血を水遁術で一塊にし、土中の奥底へと流し込んだ後立ち上がると何かを弄くり回す相方の姿が目に入った。
 何だ、と掛けた声にぬっと差し出された手には筆の太さ程に纏められた巻物と、一握り程の大きさの彫像が乗せられてある。
 どちらも鎌の刃に貫かれた傷からの血で塗れ、俄には検分し難い状態ではあったが、それを仕舞うよう身振りで示すと嫌そうな顔をしながらも、同じく返り血の跳ねた衣の隠しへと遺留品は収められた。
 やや間を置いて戦闘が終わってからゆっくりと近付いてきていた気配が二人の前へと現れ、事の首尾を確認した者、即ち人売の男は殺しの代金を数日後に引き渡す場所を改めて伝え、後の始末はこちらで、と言いその背で二人を言外に去るよう促したのであった。
 
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