単発文置き場
□揚雲雀
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何度挑まれようと返り討ちにすれば良い事ではあるが、その度に奴の気の済むまで付き合っていては幾ら時間があっても足りはしない。
これでは要らぬ足止めどころか本来の目的を果たすにも差し支える。
そう結論付けた俺は、少しも懲りた様子の無い連れに新たな条件を突き付けた。
今後も勝ち目の無いお前の挑戦に付き合うには条件を出させて貰おう。
賞金首一つにつき一回相手になってやる。
そう試しに言ってみた条件に、奴は意外な事に素直に頷いた。
恐らくただ闇雲に仕掛けても無駄な事に気付いての事だろう。
常とは掛け離れて真摯な藤色の瞳を向けられ、俺はこいつに追い抜かれて堪るかと気を引き締めた。
結局碌な尾獣の手掛かりも掴めず、大陸を南下する旅もじきに帰点を返す事になるだろう。
旅の間に稼いだ金は億を超えたが、無論俺には土は付かず、奴の連敗記録が二桁を達成した。
ぐうの音も出せないよう叩きのめした後には、敢えて口程にも無い、と言い捨てている。
だが、奴との勝負に決着を付けるのには初回の時よりも手が掛かるようになっていた。
それは仕掛けてくる当人も手応えを感じてきているのか、懐に飛び込まれて拳と刃を打ち合わせた時などには至極愉しげな顔さえしていた。
今こうして旅すがらに思い返すに、こいつは本質的に戦いを好んでいるのだと思う。
それは例えば奴の崇める奇っ怪な神の教えなど知らずとも、自ずと顕れたに違いない。
そうすれば遅かれ早かれあの里には居られなくなっただろう。
幸か不幸か俺と連れ立ち、共に血生臭い道を行くには奴を置いて他には居ようもあるまい。
春めく陽気の中、つらつらと続けていた物思いに区切りを付け、緩やかな斜面を埋める山躑躅にふと目を移すと、それと同じ色が目の端に映る。
いつの間にか奴は、どこで憶えたのか薄紅の花房を口にし、その蜜を啜っていた。
正しく児戯に勤しむ連れの頭上を、すいと一羽の鳥が飛び越していく。
その鳥は忙しい囀ずりを残し空へ空へと高く昇り、また彼方へと飛び去って行った。
未だ成長の余地あるこいつを、根気良く鍛えるのもまた俺の役割であるのだろう。
こいつがその旨に感謝する日が来るとすれば、今より多くの成果を得られている筈だ。
その時には、今度は俺の望みを聞いて貰うとしよう。