単発文置き場

□ユピテル・イオシティ
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 民間のシャトルが銀河を飛び出し、星と星との間を行き来する、そんな時代。
 木星とその衛星の間に、数十万の人々が暮らすコロニーがドーム体の姿を浮かべていた。


 深海に生息する、クラゲのような半透明の笠が人工の地平を覆い、そこに住む人々に常の星空を見せる。 かつての人類は昼と夜を知っていたが、今それを知る者はここにはいない。
 屋内は機械制御の調光・調温が保たれ、季節による気候の変化さえ存在しなかった。
 ドーム基部は蜂の巣状のブロックに別れ、ここでの全ての生産・消費をまかなうプラント施設が大半を占めている。
 残りの数層が人々の生活圏であり、移民から二世紀が過ぎた今では次第に各人の暮らし向きの差が、住む階層の位置から自ずと別れるようになっていった。

 閉ざされた広い空間で一つの命が生まれてから消え、その間にドームの外へと出る者は半数に満たず、母なる星の記憶は記録へと姿を変える。
 その内の幾つかの逸話の中で、真しやかにその存在を今でも語られる者達の名があった。

 彼らは総じて“暁”と呼ばれている。

 かつて移民開始以前からの計画に携わり、コロニー建造に深く関わりその後の方向性を示したと言う。
 彼らの内の子孫(または当人)が今もこのコロニーのどこかにいるという噂が、絶えず浮かんでは消えてゆく。


 宇宙にただ塵の漂うばかりだったこの座標に、人々の暮らす一つの世界を築いた彼らを探す者があってもおかしくはない。

 ユピテル・イオシティ。 そこには昼夜の隔ては無く、常に天には星の瞬く宙空がある。
 その下で見られる人々の夢も千差万別、終わりも限りも無い。
 
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