単発文置き場
□揚雲雀
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これはまだ、尾獣の所在も然とは掴めぬ頃の話。
大陸各地にしつらえられた新旧のアジトを確認する為、岩の国の北端を起点に南下する旅の途中で俺の連れの顔触れも新しいものになった。
川の国に入る前まではある意味気楽な一人旅であったが、各員の単独行動を認めぬリーダーの強い勧めによって、再び新たな連れを迎えざるを得ない運びとなる。
南下の旅を再開するまでには二月以上を要したが、その経緯についてはここで述べるべき事でもない。
その新顔を連れ南地へとあらためて出立の運びとなった時、未だ世間は木ノ葉と砂との軋轢にざわめいていた。
尾獣についての内偵は既に各地に散らばってはいるが、今のところ隠れ里の内地に匿われている人柱力以外にはさしたるあても見付かっていない。
今はじっくりと機を見、一人一匹のノルマをこなす前に、差し当たっての資金を稼ぐ事が当面の俺達の務めでもあった。
今の連れは先々の浪費癖のあった男に比べれば無欲なものだ。
金銭面以外では甚だ問題が山積しているが、とにかく稼いだ金に目を眩まして持ち逃げするような輩ではないことが救いだった。
ただ、この奴と金の事で争う理由が無い訳ではない。
何かと言い掛かりを付けては勝負を挑み、毎度返り討ちにあってなお懲りない馬鹿相手に、俺は考え無しに軽口を叩いてしまったのだ。
もし俺がお前に負けるような事があれば、今まで稼いできた金を全てお前の好きなように使わせてやる、と。
その時には言った側から後悔したが、要は絶対に負けなければ良いと己に言い聞かせて済ませた。
ボロ雑巾のような有り様で転がる奴が、それを後から引っ張り出しては勝負を吹っ掛けてくる事は想定外だった。