★長★

□Time after time【第3章】その一
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再び訪れるクルルズラボ―
入り口はロックがされておらず
自動で開いた。声はかけずに
そのままケロロは扉の中に
入る。部屋の中を見回す、が、
中は静まり返っていて、
クルルの気配がない。

「クルル…?」

そばにあるクルル愛用の椅子に
座ってみる。目の前には
キーボード以外にさまざまな
スイッチやボタン、プラグや
ラインがびっしりと並び、
ケロロには何がどうなって
いるのかさっぱりわからない。
これらの装置を使ってクルルは
いろんなことをやってのけて
きた。様々な事象の解析から
武器の設計、作成―
もちろんヤツのしでかす
トラブルアンドアクシデントに
も大いに役立ててきた
のだろうが―ケロロにとっては
ケロロの体調からバックアップ
体制までの全てをやってくれて
いた装置でもある。

―そういえば…「我輩」の
 ことはどうなるんだろう?

超ケロン体のケロロの管理は
ずっとクルルがやってきたので
ある。超ケロン体は国家機密
事項であるため、そうそうとは
外部の人間にできる管理でも
ない。むろん軍の上層部は
そんなことは承知の上
だろうが―。
それでもクルルを要するほど、
ケロンの現在の状況が
逼迫していることが窺える。

―だけど…
―我輩…クルルじゃなきゃ
 ヤダよ…

また目には涙が湧いてくる。
今日はもう何年分かの涙を
流してるような気がするのに、
未だ枯れずに次から次へと
涙は溢れる。

―我輩ほんとに
 泣き虫であります…

ぽたぽた落ちる涙を拭わず、
ケロロは肩を震わせて泣いた。

「何やってんだよ、隊長」

目の前のスピーカーから
声が聞こえる。


「クルル?
 ど、どこにいるんで
 ありますか?」

慌てて目と鼻を擦り、
スピーカーの隣のマイクに
話しかける。

「あんたの下。
 あんたがそこにいたら
 部屋に帰れねーんだよ」

スピーカーからはエラー音の
ような音が響いていた。

―そういえば、
 クルルは椅子に座ったまま、
 別室に移動したり
 してたっけ…

ケロロは急いで椅子から
降りて、その場から少し
遠ざかる。
すると椅子が一瞬消えたかと
思うと、再びクルルを載せた
状態で現れた。

不機嫌な顔を見せまいと
するかのようにケロロから
顔をそらし、キーボードを
叩きながらあれこれボタンを
操作し始める。

「クルル…」

「俺様は結構忙しいんだぜぇ〜、 時間がねぇーからなぁ。
 あんたの酔狂に付き合ってる
 暇はもうねーよ」

―時間がない…

もう自分達には時間がない。
こうしてやってきても
ここにはクルルはいなくなる。
間近であの嫌みな声を
聞くことも、バカにしたように
笑われることも、
ままごとのような作戦に
つき合ってくれることも、
へんなイタズラをされたり、
覗き見をされたりすることも…
もう、ない。
我が輩が手を伸ばして
クルルに触れることができる
時間はあとわずかしか
残されてない…
こみ上げてくる思いのまま、ケロロは黄色い背中を抱きしめる―

クルルの肩がピクリと動く。
一瞬の間の後、いつものような
嫌味な笑い声が響く。

「クークックックック…」

ケロロの方には顔を
向けないまま、黄蛙は
馬鹿にしたような口調で話す。

「俺様のキスの味が
 忘れられないってか〜?」

ケロロはクルルの肩に顎を乗せ、
少し微笑む。

「んー…そうでありますな。」

「いちいち真に受けてんじゃ
 ねーよ」

「可愛くないでありますなぁ…
 ふんっとに、いつも…」

「忘れられないなら
 今すぐ記憶を消して
 やるぜぇ〜」

「バカッ!こっち向け、
 このへそ曲がり!」

ケロロは両手で黄色い頬を挟み、
自分の方を向かせた。
分厚いメガネの奥の金色の瞳が
たじろぐ。

「記憶を消されるのは
 ごめんでありますよ、全く…
 なんでもかんでも消しゃいい
 ってもんじゃないデショー」

深く黒い闇の中に
吸い込まれそうな瞳を
揺らめかせながら、
固まる黄蛙をじっと見つめ、
ケロロ は微笑んだ。

「今日は一緒にいようよ…
 クルル…」

黄色い肩に両腕を回す。

「いさせてよ…」

苦笑いのような表情を浮かべ、
呟くようにクルルは言った。

「後悔するぜ…」

「しないよ、絶対…」

「…アサシンを泣かせても
 いいのかい?」

ケロロは少し俯いた。

「心配しなくても…」

表情を見られないように
下を向く。胸に痛みが走った。
でも今は考えない。
考えちゃいけない。
そうしてケロロは
おどけたように首をかしげて
笑って見せた。

「もう…泣かせてきちゃった
 であります」

クルルは苦々しい表情で
溜息をつく。

「…バッカじゃね?」

ケロロは無言で笑い、
クルルに口付けた。
応じるように黄蛙は緑の体を
抱きしめた―。
(続く)
 

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