★短2★

□Kiss like Kiss(D66&K66)
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「隊長殿、拙者が何か気に障ることをしたでござるか?」
「べっつにィ〜……」



自分に背を向けたまま、不機嫌そうな声でそう答えたケロロをドロロは溜め息混じりに見つめた。
もうかれこれ小一時間──
彼は話しかけても自分の方を向こうとせず、ニッパーでプラパーツを切り離しているが、あまり捗っているようには見えない。イライラした手で時折切り離しに失敗してブツブツと文句を言い、溜め息をつく。

「部屋にこないか」と誘ったのはケロロ

誘っておきながら忘れる、
忘れてなくてもドロロをほったらかしてガンプラを始めとするケロロズボビーに夢中になってる、
なんてことは日常茶飯事だから、青い忍者蛙はそんな彼を待つ術だって心得てはいるのだけど、彼から滲み出している不機嫌オーラに、今日のところは退散した方が賢明な気がして切り出してみるも、「帰んのかよ……」とこれまたさらに機嫌を損ねた声を出されてしまっては、ただどうしようもなく彼が動き出すのを待つしかない。

もう一声かけて、反応がないようならば、一度基地内菜園の片付けでもしに行くと告げよう、とドロロが軽く息を吸った途端、ケロロの不機嫌な声が小さく響いた。

「何、あっさりやられちゃってんでありますか……」


「……え?」


「…………アサシンが聞いて呆れるであります……ったく……」




と、緑の手が力任せに握り締めたニッパーがプラスチックのパーツ片をポキリと折って、ケロロは「ゲロッ!?」と蛙が踏み潰されたような声を発した。


いつもならば彼が悲鳴をあげそうな場面なのだが、未だ背を向けたまま、肩をぷるぷると震わせているケロロを見て、なんだかよくわからない状況にドロロがおどおどと何にそんなに怒っているのか問いかけようとするより早く、ケロロは手にもっているもの全てを放り出し、叫んだ。


「ドロロのせいであります!どうしてくれんだよ!」


「え、そんな……」


よくあることではあるが、物凄い言いがかりだ。が、原因は別にあるとして、とにかく彼はどうやら自分に対して怒っているのは間違いない。何、あっさりやられちゃってるんだよ……って何のことだろう?ドロロはもう一度穏やかに尋ねた。




「何怒ってるの?ケロロ君」


「怒ってない!」


「怒ってるでござる」


「怒ってないであります!呆れてんの!」




ドロロの方を向きイーッ!っと顔を顰めるとケロロはふてくされて顔を背けた。




「……チューされてんじゃねーよ!シンジランナイ!我輩はちゃんと最後まで死守してんのに!いくらタママ二等が妖怪化してたからって、あんたアサシンでしょ?ってかやられてもチューとか回避して当然っしょ!?」




何を言い出すのかと思ったら、君は……




元はといえば、事の発端はケロロなのである。ケロロを慕うタママの「軍曹さんに目覚めのチューをしたい」という願望が暴走し、暴徒と化したタママからケロロが逃げ回っているときにギロロもドロロもケロロの盾にされたのだ。自分たちの犠牲の上にケロロは逃げ遂せておきながら、チューされてんじゃねー!と腹を立てられるのは、かなり理不尽だ──が、しかし、ホントにタママにケロロの唇を奪われてしまうことの方が、よっぽど一大事ではあったし、もはやキスというよりも化け物に『吸引』という攻撃を受けたような事態にも関わらず、自分以外の人間とのキスにケロロがプリプリと怒っている事実にドロロの顔は綻んだ。




「だいたいねー!あんた最近たるんでんでありますよ!ペコポンのぬるま湯生活に浸り過ぎてんじゃネ?しっぽのとれない二等兵にヤラレちゃってどーすんの?」

ガンプラ作成中のこの隊長にそっくりそのままお返ししたいような台詞だが、もうこの緑の君に首ったけな兵長にはそんな彼の言葉すら愛しさを感じずにはいられない。さらに不平をとなえようとするケロロの肩をキュッと抱くとケロロはその腕をふりほどこうと手をバタつかせるが穏やかな声がそっと囁く。

「まっこと、ケロロ君の言うとおりでござる……拙者はまだまだ未熟者でござるな」

予想外の肯定と背中に感じる温かさに頑なな気持はさらりと融ける。


バツが悪いほどの心地よさに常人ならば躊躇ったとしても、あっさり身をまかせるのがケロロである。力の抜けた手を投げ出すとそのままドロロの胸の中に全体重を預けた。




「……へ〜ンッだ……」




少し体を下方にずらし、ドロロを見上げると、ケロロはドロロの口を覆う布に手を添えた。引き下げようとするケロロの手より早く青い手によって口布は外され、そうすることが当然のように唇は重ねられる。
そういえば寝ぼけて誰かにキスしたような気がしないでもないけれど、そんなことはまぁ、いいか……と、背筋が熱くなるような狂おしさにケロロは身をゆだねる。




ほっぺにチューぐらいさせてやったらよかったのだろうか……?




と、自分のことをどこまでも慕ってくれる幼い部下にほんのちょっぴり罪悪感を感じながら──

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