10/08の日記
22:08
金木犀のキス
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君が、愛しい5題〜4〜
…この香りが、あの秋を思い出させる。
抜けるような秋空と、リズミカルに泳ぐ赤トンボ。
サラサラと心地よい川のせせらぎに踊らされてくるくる回ったのは、彩りはじめた黄色い落ち葉―
…白い頬に灯った桜色と。
少女の、
恥ずかしがる表情が。
―たまらなく、いとおしくて。
オレは思わず、その華奢な肩を抱き寄せた。
…―
香りは記憶を呼び覚ます鍵なのだろう。
オレは開け放した自室の窓から、街を見下ろした。
金木犀―
小さな花の集まりが織り成すかすかな香りは、
あの瞬間を思い出す。
―オレはスニーカーに足を入れると、
自然にいつもの公園に走った。
―ここに、いる。
…そんな気がした。
なんの根拠もない、ただ小さな花の香りがオレの背中を押したんだ。
そうだ、
きっとアイツなら、こんな思いつきの行動すら、なんとなあく、とでも言うだろう。
…ずいぶん、アイツに影響されているな、
アイツと出会った、
とんがっていたあの頃の時間ですら、
今は愛しくて、かけがえのないものだと、声を大にしていえる。
…―
『…小狼、くん…?』
夕方が早々と帰り支度を始めていた公園に、
オレの名を呼ぶ少女の姿があった。
『…どうして、』
口に出してから、オレははっとした。
そうだ、答えは決まっている。
いつも通り…なんとなくだろう、きっと。
でも。
今日は違っていた。
『…小狼くんが来てくれたらいいな、て思って。』
ペロッ、小さな舌を出したさくらの手には、
『【花】のカードか、』
ごめんなさい、声にならない言葉で小さく謝ったさくらの横に、ちょっとそっぽを向きながら並んだ。
―公園を流れる小さな橋から見えるのは、揺らめく二人の影。
『…この香りをかぐと、なんか…思い出しちゃうんだ。』
小川に映ったさくらが口を開く。
―頬を小さく染めて。
『金木犀、だろ?』
…うん、
…ちょっと嬉しそうな表情のさくらに。
―オレの胸が高鳴る。
これから先もずっと、秋を迎えるたびに胸の奥に甘酸っぱい気持ちが広がるだろう。
―オレも、さくらも。
そう、金木犀は…
初めて唇を重ねた、あの日の香り―
『…―さくら、』
オレは、もう一度その香りを記憶に刻みつけたくて。
さくらの肩を、強く抱き寄せた―
☆コメント☆
[あとがき] 10-08 22:13 削除
もしも、二人がキスをするなら…公園のあの橋の上で。とか、そんな妄想。季節は秋で。近くの金木犀が良い香りを放っている、そんな初キッスシーンです。
香りの記憶って強いですからね、金木犀の香りを嗅ぐたびにニヤニヤする小狼とか(笑)ぽややんするさくらとか(笑)かわいいんですけど(苦笑)
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