大人向け
□ねこ、ネコ、猫。
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さくらの部屋にある、ちいさなテーブルに広げられた、1枚のプリント。
今日の国語表現の時間に出された課題だった。
『・・・うちにある、身近なものになり切って文章をつくってみましょう・・・だって・・・。
ねえ、小狼くんは何にする?』
う〜ん、さくらがまだほのかな熱をおびている頬のまま、小狼の方を振り返った。
こういうのは苦手だ、だいたい日本の国語とは、1つの語句にも色々な表現があるから、難しい。
小狼は顎に手を当てて、む〜っと考え込んだ。
『そうだな・・・何にしよう・・・』
こんな気持ちの良い陽気なら、アレがいいだろう。
ふわふわ、柔らかくて・・・
気持ちいい・・・
『・・・ネコ、かな・・・』
自分で言って、小狼は噴き出しそうになった。
ネコになってみたところで、それになり切るのはなかなか難しい。
む〜っと、もう一度腕組みをしていた小狼のそばで、さくらがぱっと顔を輝かせた。
『それ、いいね、さくら、それにするよ、』
そういったさくらは、ちょっと首をかしげて考え込んでいたが、やがていそいそとポケットからピンクのカードを出した。
『お、おい、何するんだ、』
冗談だろ、小狼の言葉はもうさくらの耳には届かない。
『大丈夫、何とかなるよ♪』
さくらは窓を開けると、すぐそばで寝転んでいた何かを抱き上げるといつもの呪文を唱えた。
・・・ちいさな部屋はあっという間にまばゆい光が満ち溢れる。
『【替】!!』
やめろっ!小狼が叫んだ時にはもう、桜色のカードから強い魔力があふれ出していた。
【替】にはひどい目にあっている、あんなこともうこりごりだ、小狼は以前、封印の獣・ケルベロスと心が入れ替わった時を思い出し、身震いをした。
慣れ親しんだ自分の身体ほど、他に変えられるものはない、と実感したものである。
だが、もう遅かった、
まばゆいさくらの魔法から姿を現した二つの存在は、もうすでに心が入れ替わった後であった。