オハナシ
□花粉症にご注意!
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『山崎くん、おはよう』
『・・・何してるの?』
いつもの細い目をますます細めて、まるでお店やさんのように女の子たちの机に広がる雑貨達に笑みを浮かべる。
『奈緒子ちゃんが作ったアロマキャンドルよ。・・・リラックス効果のある香りやお肌の調子が良くなるものもあるんだって。』
『へえ、すごいなあ!・・・あ、そうそう、アロマテラピーっていえばね・・・』
『・・・ほえ?』
『昔、地中海のある島にローズマリーという王妃様がいてね、美しい自分がだんだん老いていくのが嫌で、どうにかならないかと若返りの薬を探しに旅に出たんだ。・・・ところがどこを探してもその草は無くて・・・
怒った王妃は海辺に生えていた草をむしり取り、顔に塗ったんだって。
・・・そしたらね、急にお肌がスベスベになり、つやつやしてきて・・・
その草が生えている場所をよ〜く見たら、それは自分が生まれ育った海辺の町だったんだ。
・・・それで王妃様はその草を、自分の名前から取ってローズマリーと名付けたらしいよ。』
『ほえ・・・そうだったんだ、』
『・・・さくらちゃん、嘘よ嘘。山崎君の言うことはぜ〜んぶ嘘なんだから!』
『はははは、ひどいな千春ちゃん。』
『でも、半分は当っておりますわ。ローズマリーは化粧水などにも良く使われますし。』
『ほえ〜、じゃあ、やっぱり効果があるんだねえ・・・』
さくらはもう一度手の中にあるアロマキャンドルの香りをくんくんと嗅いだ。
その時―
『・・・は、はくしょんっ!』
『まあ・・・、李君、いらっしゃったのですか??』
知世が長い髪を揺らし、山崎の後ろに視線を投げかけた。
―決して小さくない身長ではあるが、山崎には今でも及ばなかった。
背だけではない、精神面でもひょうひょうとしている山崎の方がずっと大人びている。
まだ幼さが残る瞳を揺らした小狼は、ずずずっと鼻をすすると女の子たちの前に姿をあらわした。
『しゃ、小狼くんっ!おはよう♪』
知世が李君、と呼びかけた声を聞いて、さくらの胸が弾む。
今朝はまだ顔を見ていなかった、
自分の教室に入る時に、B組を覗いたけれど彼の姿はなくって。
それに時間に正確な小狼くんなら、いつもの時間には下駄箱にいるはずなのに、今朝はどういうわけかいなかったし・・・
やっと会えた嬉しさにさくらの声が少し裏返ったのを聞いて、長い髪の少女はくすりと微笑む。
『・・・ああ、おはよう。』目も合わさず、小狼が小さく答えると、
『・・・どしたの?』
さくらが心配色の瞳で小狼を見つめた。
『・・・なんでもない、』
そしてまた、ずずずっと鼻をすする音をたてた。
『まあ、李君。お風邪ですか?』
『いや、・・・熱はない、』
そういって、自分のおでこに手を持っていき、熱を測るそぶりをした小狼が、やっぱり熱くないな、と首を振った。
『李君、朝からこんな感じなんだよ、』
山崎が腕を組み、う〜むと首をかしげる。
すると、今まで黙って話を聞いていた奈緒子が、なにかを思い出したようにぽん!と手を叩いた。
『それはきっと・・・』
『・・・え?』
みんなの視線が奈緒子に集中する。
メガネを光らせたボブカットの少女は自信ありげに言い放った。
『・・・それはきっと、花粉症よ!!』
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