拍手お礼ストーリー

□降水確率90%
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「7月7日夜の天気は雨―」
今朝の気象番組が簡潔に告げた。
ニュースを読み上げるアナウンサーが、作った笑顔で『牽牛と織姫の、年に1度のデートは雨に降られてしまいますね、』とそっけなくいう。

『はううううっ・・・また雨が降ってきちゃったよ、』

『当たり前だろ、』
今夜の降水確率は90%。
この町では七夕の夜に晴れるのは10年に1度か2度しかない。
それもそのはずだ、この時期はちょうど梅雨前線が停滞していることが多い、晴れることはまず珍しいのだろう。

それでも―、
オレは隣りでしょげている少女の傘をちらりと盗み見した。

日付は7月7日から8日へ続く境界線。
時間うさぎがあと1歩踏み出せば、明日がやってくる。

友枝町に降り続く雨のシャワーは、まるで永遠に続くかのような音色を重ね、遠くの景色すら霞がかった雨粒のせいでよくみえない。

『でも、ぜったいぜったい晴れるもんっ、
だって、今夜は1年に1度の牽牛さんと織姫さんのデートの日だよっ、
・・・今日を逃したら来年まで会えないって、』
オレはもう一度、そばで傘を広げる少女へ視線を落とした。
『・・・さみしすぎるよ・・・』

―濃紺の空を見上げた翡翠色の瞳はせつない表情をしていて。
夏色のパステルワンピースから出た肩は小さく震えている。

オレは心が痛んだが、
わざとらしく咳払いすると、前をむいたまま口を開いた。

『・・・やっぱり無理だな、』
だが、そんなことは朝から知っていたはずなのに、
それならなぜオレは、マンションのベランダで、こうしてさくらと並んで傘を差しているんだ?

『・・・そうかなあ、』
しゅんと、肩を落としてさくらがつぶやく。

―が、
『・・・じゃ、【雨】さんのカードでっ、』
さくらが思わずポケットに手を伸ばす。

『ば、ばか、そんなことしたら余計に雨がやまなくなるだろ。』
オレが慌てて制す。

『はううう、じゃ、じゃあ、【雷】のカードさんは、』

『これ以上悪天候になったらどうするんだ、』
オレに一喝されて、ますます小さくなるさくら。

『それに・・・そんなことに魔法を使うな、』
わかっているだろ?
決して自分のことに使うわけではない、それがわかっているからこそ、オレはたしなめるようにさくらに言った。

『・・・はい。』
はうう〜とうなだれたさくらが、持っていたカードをぱらぱらとめくると。

―目の前に現れたのは、
『・・・【嵐】のカードさん?』
さくらの視線の先に、オレも目をとめる。
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