拍手お礼ストーリー
□自転車に乗って
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―小狼くんが日本に戻ってきた週末。
お兄ちゃんに自転車を借りて、少し遠くまで足をのばす。
カラカラと規則正しく車輪が回る音が心地よい。
しっかりつかまってろ。といった小狼くんの背中に、自分の頬を預ける。
春の日差しが汗ばむくらいの陽気のせいだけじゃない、私の心臓の鼓動が今にも聞こえてしまいそうで…小狼くんの腰にまわした手が
しっとりしているのがわかる。
ここだろ?…スピードを緩めて小狼くんが止めた先には、キラキラと水面が輝く、私のとっておきの川原があった。
うん♪自転車の後ろから飛び降りて、私は駆け出す。
…ずっと、小狼くんにみせたかった。私のお気に入りの場所。今も変わらず白い花が微笑んでいた。
―ねえ、こっちこっち!
土手の上にいる小狼くんを呼んだ。
白い花のにおいをかいでから2、3本摘む。
―だけど…、あ、と立ち上がった瞬間、私は露草で足を滑らした。
おい!大丈夫かっ?
小狼くんが素早く駆け寄ってきて、心配そうに私の顔を覗き込み…
どうやらなんともないと確認したら…ぷっ…とふき出す。
え?…
私は痛む腰をさすりながら、その声にぽかんっとした。
ぽかぽかの陽だまりを背に、クククッとまるで小鳥のように笑う小狼くん…
そんな姿、もしかしてはじめて見た、ような気がした…
おまえ、頭に花が咲いているぞ。
…口角を緩めたまま、小狼くんの手が私の髪に触れる。
きゅんっ…胸が締めつけられ、でもなんだかくすぐったくて…
さくら、だよっ…
ちょっとふくれて言ったけど・・・きっと今、私の顔、赤くなっている…そうわかっているから顔を上げられない。
ふっと、また笑ったような雰囲気がして、スッ…と差し出された花。
さくら…照れたようなぶっきらぼうの声の向こうに、私がいっちばん会いたかった、いっちばん大切なヒトの顔があった―
『小狼くん…おかえりっ…』
…二人が離れている間も、私は私の物語を紡いでいたけれど。
でもこれからは二人の物語を、一緒に創ろう…ずっと…
fin.
2009/4ブログ拍手