おはなし1

□歌を聴かせて
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―満天の星空
ふりそそぐ淡い光
心やすらぐ美しい旋律…

あの日のわたしたち…

『はう、夢かあ…』
心地よい眠りから目覚め、さくらは窓越しに朝の陽射しを眺める。

―昨日、知世ちゃんと買い物に行った帰り。

『さくらちゃん、お願いがありますの。』

『ほえ?なあに?』

『…明日の夕方、友枝小学校の前でお待ちしておりますわ』

そういうといつものように微笑む。

知世ちゃんからのお願いって、あまりないんだ。
だから、私はどんなことでも叶えてあげたくなる。
いつもやさしく見守ってくれる大切なオトモダチだからー


―…その日の夕暮れ

『知世ちゃん来てるかな?』

『さくらちゃん!』

知世がすぐにさくらの姿を見つける。

さくらたちが数日前に卒業したばかりの友枝小学校。

教室には生徒たちの荷物はほとんどなく閑散としていて、進級、新入学に備えて学校は眠っているようだ。

二人はぎゅっと手を繋ぎ、ある場所に向かった。

『屋上…でしょ?』
さくらが今朝の夢を思い出す。

ふふふ…知世がご名答とばかりににっこりした。

『はい。歌を…私、小学校最後の思い出に“ソング”さんとデュエットをしたいんです。さくらちゃん、お願いできますか?』
知世が小首を傾げる。

そう、“ソング”のカードはまださくらがクロウ・カードを集めていた頃、友枝小学校の音楽室に潜み、夜な夜な歌の上手い知世の真似をして歌っていた。

それを聞いた生徒たちが音楽室にお化けが出ると言ったものである。


『うん、いいよ。

…我に至上の歌を届けたまえ…ソングっ!』

星の杖を振るとカードから“ソング”が現れる。


知世が“ソング”ににっこり会釈し…

一呼吸おいた後、もう日も暮れて星が散らばる空を見上げ、透明感のある美しい歌声を響かせた。




“ソング”が知世の歌にあわせて歌いはじめる。

冷たいコンクリートの屋上に広がったやさしい歌声のヴェール

『きれい…』

耳をくすぐる極上のハーモニーにさくらはなんとも言えない幸福感でいっぱいになった。

…この歌をあの日のわたしたちも聴いたんだ。

“ソング”さんをカードに戻すために知世ちゃんの歌のチカラを借りて。

わたしと苺鈴ちゃんと…小狼くん
みんなで聞き惚れたよね。

クロウ・カード探しをはじめてから、
いろんなことがあったね。

知世ちゃんの協力で“シャドウ”のカードを見つけたよ。
そういえば…さくらカードに変える時にエリオルくんが起こした事件では、知世ちゃんがいなくなっちゃって…

でもわたしのこと信じて歌ってくれたのおかげで、見つけることができたんだよね…

友枝小学校で過ごしたかけがえのない時間。
いつも、素敵な友達がいた…
知世ちゃん…

そばで支えてくれた大切なヒト…

『そうだ!』
さくらは知世に見つからないように、そっと星の杖を振る。
『まあ…』
知世がうっとりと見上げる。

『“グロウ”さん、ですわね』
さくらはにっこりうなずく。
淡い光が知世とさくらの空間へ降り注いだ。

そう、夢でみたあの情景…
あの頃のわたし、歌っている知世ちゃん、苺鈴ちゃん…
そして小狼くん…

歌声が時間の流れを変えてゆく。

心の奥底があったかい…これは知世ちゃんの魔法…

――
『さくらちゃん、ありがとうございます。』

『ううん、わたしこそ、いつもありがとう』

さくらは美しい友人に感謝する。

『さくらちゃん、先ほど李くんのこと、考えていらっしゃいましたか?』

『ほ、ほえ?な、何で?』

思わずドキドキする。

『さくらちゃんのことは何でもわかりますわ。』

にっこり微笑む知世。

『さくらちゃんと李くんの結婚式の時はぜひ私に歌わせてくださいな。そして!さくらちゃんのウェディングドレスもぜひ私にっ!』

知世がさっきとうって変わってキラキラ顔を輝かせる。

『ほぇ〜そんなっ、恥ずかしいよぉ〜』

顔を赤らめ、うつ向くさくら。

知世はいとおしい人の横顔をうっとり見つめる。

…私の願い。いずれ、必ず叶うはずです。
―さくらちゃんの幸せが私の幸せですわ。

…夜空にはねこの爪のような銀色の月が引っ掛かっていた。

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