おはなし1
□私と同じ名前
1ページ/1ページ
『小狼く〜ん、こっちこっち!』
三連休の初日。
午前中に雨が降ったせいか、動物園はいつものような賑わいが少ない。
さくらは小狼にどうしても見せたいものがあって、小狼をこの動物園に誘った。
いつか遠足で来たあの動物園。
でも今日は二人きりで…
これって…デートみたい…
さくらは恥ずかしくなって頭をブンブン振った。
『どうかしたか?』
『ううん、なんでもないっ』
さくらは赤く火照った顔を見られないように、先を歩いた。
『うわ〜っ見て見て、きりんさ〜んっ』
『きゃあっ、しまうまさんかわいいっ』
次から次へと、動物に駆け寄っていくさくらについて行くのに小狼は精一杯だった。
『お前、本当に動物好きだな。』
『うん♪大好きっ』
『…子どもみたいだ』
『え〜っ!?さくら子どもじゃないもんっ』
プンスカ顔のさくらを小狼は優しく見つめる。
そのまなざしに気づき、さくらはほほを染め、
『次行こうよっ』
と振り返りもせず動物のところへ駆け出した。
『…さくら?』
ふと小狼が我に帰ると、さくらの姿がみえない。
おかしいな、さっきまでここにいたのに。
集中してさくらの気配を感じる。
小狼は、動物園の奥の方に以前使ったであろうクロウ・カードの魔力を感じた。
『そうか…!』
この場所で、オレは手に入れていたクロウ・カードを使って、“パワー”と力比べをするさくらに手を貸したんだ。
まだ、さくらのことをクロウ・カードの承継者とは認めたくなかったあの頃。
思い出すだけでも恥ずかしい。
初めて彼女に会った時、おそらくさくらには力が及ばないとわかっていた。
心はざわめき、揺らいでいたはずなのに、それを信じたくなかった。
オレも子どもだったなあ。さくらのこと言えない。
心がしめす道しるべをたどれば、もっと早く本当の気持ちに気づくことができたのに。
そうだった…
小狼はもう一度、気持ちを集中させた。
……不安気なさくらの表情…
彼女の前にいるのは…
『わかった!』
小狼は駆け出した。
『小狼くん、ごめんなさいっ』
さくらの元へたどり着いた小狼に、さくらは涙を浮かべて謝る。
『いや、いい…。それより、さくらは大丈夫か?』
小狼はさくらの顔を見てほっとする。
『うん…私、早く小狼くんに見せたいものがあって…急いで行っちゃって…ごめんなさいっ』
『…見せたいものってなんだ?』
そういえば、さくらはずっと見せたいものがある。と言っていたけど。
『見て!』
さくらが指さしたのは、ゾウの親子だった。
『あのゾウさんね、前にこの動物園で“パワー”のカードさんと力比べした時に私の応援をしてくれたぞうさんの子どもなの。名前がね…』
「サクラ」
『私と同じ名前なんだよ♪』
サクラと名のつくゾウは、さくらに気づきこちらに向かって歓迎のサインを送る。
『それでね、ゾウさんのサクラがね、お母さんになったんだよ。最近、中国からお婿さんをもらって赤ちゃんを産んだんたって。しかも双子だよっ』
ゾウの「サクラ」母さんのそばに、小さい二頭の象が寄り添う。
その様子を父親象が見守る。
『ね、素敵でしょ?どうしても小狼くんに見せたかったんだっ』
『さくらが象かあ…』
小狼がぷっと吹き出す。
『も〜、小狼くんまでお兄ちゃんと同じことを言うのぉ〜っ!?』
さくらが拗ねる。
その姿をかわいいと思いながら、
『ご、ごめん…でも、もうさくらが迷子になるのはイヤだから…』
『え?』
『手を…、つ、つなごう』
小狼はさくらに手を差しのべた。
たとえ、次元さえ越えてキミを見失なったとしても、オレは必ずキミを見つける。
この命にかけても。
でもその前に…
キミの手を離さないように。
どうか…
ずっとそばにいさせて。
『オ、オレ…、“ナマケモノ”が見たいんだ。』
小狼とさくらは手を取り合い並んで歩いた。