おはなし1
□まあるいキモチ
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『ケロちゃ〜ん!たこ焼き買ってきたよ〜っ』
バタンっと元気よく玄関のドアを閉め、さくらは一直線に自分の部屋にいる同居人のところに駆けつける。
たこ焼きには目がない、黄色いぬいぐるみさん…
実は、これは仮の姿であり、本来はクロウ・カードとその主を守るべく生まれた獣、ケルベロスなのだ。
『ほんまか〜♪』
3度の飯も大事やけど、なんといってもたこ焼きだけは別腹や!
溢れんばかりの唾液をすぐさま呑み込み、ケルベロスはさくらに飛び付いた。
だが……
『よお。』
さくらの後ろから姿を現したのは、小学生の時から比べたら幾分?大きくなったように見える(ケルベロスの強がりか?)小狼だった。
うららかな春のある日から…
そう、小狼が友枝町に戻ってきてから、さくらの様子があきらかにおかしい。
急に、はにゃ〜んとにやにやしたかと思うと、ブンブン頭を振り回し、あれやこれやとぶつぶつ独り言を言いながら、涙目でベッドに突っ伏してしまう…。
はじめはオロオロと、そのたびにさくらを励ましたりもしたが。
最近ではこの奇々怪々なさくらの行動にもようやく慣れ、危険を察したらすぐ、巻き込まれないよう安全な場所へ避難するようにしている。
そうでもしないとさくらの腕にきつく抱かれ、顔を真っ赤にしながらはにゃんはにゃん♪言って、転げ回るさくらに窒息させられそうになるからだ。
でも…そんな時のさくらの瞳は、今まで見たこともないような輝きに満ちていて、ケルベロスはどうしていいかわからなくなるのだ。
すべては、この『小僧』のせいなんやろか?!
『よお、小僧。お前さん、何の用や?これからワイはさくらが買ってきよったたこ焼きを食うんやで〜。お前なんかにやらんわ〜なあ、さくら?』
『…相変わらず、食い意地がはっているな。』
小狼がぽそっと言ったコトバを、ケルベロスは聞き逃さなかった。
『なんやて〜!』
瞬間、眩い光がケルベロスを包み込み、同時に白い大きな羽根をふさっと広げた中から本来の凛々しいケルベロスが姿を現した。
『やるか〜小僧!』
小僧なんか、ワイの踏み台でちょうどええわ…、フンッと鼻で笑い小狼へ踏み出そうとすると…
『やめてっ!ケロちゃんっ!』
さくらがぷんすか顔で、ケルベロスの首根っこに掴まった。
小狼もはっとして、身構えた身体を元に戻す。
『今日はね、ケロちゃんと小狼くんとたこ焼きパーティーをしようと思ったんだよ!なのにケロちゃんたらっ…』
さくらのへの字口は直らない…
女の子を怒らすと後が怖いで。ここは一歩譲っとこ。
ケルベロスは仮の姿に戻り、さくらに尋ねた。
『かんにんな、さくら。で、ワイのたこ焼きはどこや?』
『うふふ♪』
急にぽわんと笑ったかと思うと、さくらは後ろに隠していた箱のようなものを出した。
『なんや…これ。たこ焼はどこや?』
さくらはさらに瞳をキラキラさせながら、
『だ・か・ら♪これから作るんだよ!』
『作る〜!?』
ケルベロスはガックリと肩を落とした。