大人向け
□いちばん星
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たまらない幸福感が全身を熱く廻る。
まだ荒い息をなんとか整えようと、深く息を吐いた。
汗ばんだ前髪を無造作にかきあげてから、どさっと、シーツの海に沈みこむ。
ああ、このまま溺れてしまいそうだ…
微睡みに溶け合って瞳を開けていられそうにない。
いつもの、自分の部屋の天井が、にじんでゆく。
小狼は、力の抜けた腕をなんとか額に乗せたままで、薄い視線だけ真横にある愛しい存在に目を落とす。
自分の肩に頬を寄せるように、蜂蜜色の髪の毛がふわりと揺れる。
うつ伏せのまま、シーツの波に溶け込んださくらは、熱っぽい表情をしたまま両手で頬を包み、
濡れそぼった瞳で宙を仰ぐ。
急に、はにゃ〜ん♪と微笑んだ後、
重ね合わせた自分の指先を枕にして、いたずらっ子のように小狼の瞳をのぞきこんだ。
『ねえ、小狼くん。さくらのこと、どんくらい好き?』
…つい先ほどまで、これでもかというくらい、身体中にキスの雨をふらせたというのに…
小狼はさくらの無邪気な問いに、一瞬で目が覚める。
『…ど、どんくらい?って…おまえなあっ…。』
さくらは、くるりんっと、小狼と同じように天を見上げてから、よいしょっ。と胸元にシーツを引きよせて。
『さくらはねぇ、これっくらいっ♪』
両手をめいいっぱい広げて、小狼への愛のカタチを表した。
―甘ったるい声で自分のことを、さくら、と呼ぶのは、家族の前と、自分の前でしか聞いたことがない。
特に…愛し合っている時。
きっと、この可憐な少女がこんなのも甘いボイスを持つことを、誰も知らないだろう。
しかもそれを聞くのは、今も、そしてこれから先も小狼だけ、と。
『う、うむ…。』
小狼は見上げたまま、しばらく考えて。
さくらが、羽根を広げた小さな小鳥のように精一杯伸ばしている姿が、細くて、か弱くて。
本当に、オンナノコ、なんだ。と改めて気づく。
『…こ、これくらい、か…?』
折れそうなくらい華奢な白い腕の隣りに、同じように広げてみせる。
湿気を帯びて、鍛えぬかれた筋肉が張っている自分の腕―
さくらのソレよりもずっとずっと大きい。
さくらは、ぷくっと、ほっぺたを膨らませた。
あう…と、急に起き上がると、ぺたんっ、と、ベッドの上に座りこむ。
その瞬間、白い肌が現れたのに気づき、あわててシーツのドレスをかき集めてから、さっきよりもめいいっぱい腕を広げ、大きな円を描く。
『さくらは、こ〜れくらい、だよっ!』
さくらの真剣な表情に小狼は吹き出しそうになりながらも、それなら、と、上半身を起き上がらせる。
『…なら、オレはこれくらい、だ。』
さくらよりも、数倍大きな円を描いてみせる。
我ながら大人気ないとは思ったが、好きの大きさを比べるのなら自分も負けられない。
次はどんな表情を見せてくれるのかと、小狼はちょっとわくわくしながら、さくらの様子を伺う。