大人向け

□バツゲーム
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それは簡単なゲームだった。
―次の英文法のテストで、ヤマが当たった方が3つだけ願い事を叶える、というもの。

はじめ、小狼は反対した。
テストはヤマをかけて受けるものではない、日々の勉強を確認するものだ、と。
しかし、さくらが自信満々にテストのヤマをかけるので、小狼は、それならオレよりテストの点数が良かったら願い事を聞き入れる。と言ったのである。

『やった〜あ♪』
小狼の家のリビングで、お互い見せあった答案用紙を高く上げ、さくらは喜ぶ。

『…うっ…』
テストを見比べて、小狼は悔しさにうなだれる。
わずか5点…コツコツと勉強していたというのに、小狼は負けてしまった。
さくらの天性の運の良さには、小狼もお手上げだった。


―さくらがそんなゲームを提案したのには、訳がある。
小狼の部屋で、どうしても確かめたいことがあったからだ。

実は、今までテストのヤマを外したことはない。
だから今回も自分を思い切り信じてテストを受け、良い結果を招いた。

『…願い事3つ、…かあ♪』
さくらがワクワクした表情で、さっそくお願い事を考える。

『まずは小狼くんのお部屋に入れてもらって、でしょ…それから…そうだ!この間結婚式で見た、お姫様だっこもしてもらいたいし…、』

さくらが細い指先を折りながら、上目遣いで考えている。

あまりにちっちゃな願いに、小狼はぽかんとして言う。
『オレの部屋…?何でだよ?』

『えっと…秘密♪』
さくらはえへへと、鼻の頭をかいた。

―さくらには小狼の部屋に入りたい理由があった。

数年前、小狼が香港に旅立つ日。
さくらにとって小狼が一番好きな人だと気づいて、精一杯の思いを詰め込んで作ったピンクのくまさん―

走り出したバスの窓から、小狼はそれを大事そうに受け取り“さくら”と名付けると言ってくれた。

そして、再会した時にも、“さくら”くまは小狼の傍らにいた。
まるで、自分がずっとそこにいたかのようだった。

…その“さくら”いつもどうしているのかが、さくらには気がかりだった。
(たまには、私の、小狼くまさんにも、会わせてあげたい、な♪)
さくらは今、サブバックの中にいる、“小狼”くまを想う。

(二人のくまさんのためにも、ミッション、成功させるぞおっ!)
さくらは、両手をぐっと握り締めた。


だが、小狼が自室にさくらを入れない理由が別にあった。

自分の空間の中にさくらが入ってきたら…
…オレは間違いなく、さくらをベッドに沈めたい衝動にかられるだろう…

いつも一人、シーツの海におぼれるさくらを想像しては、頭を振って慌ててかき消す。

いや、まだだめだ…
小狼はさくらに見えないように深呼吸をして、冷静さをよそった。
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