大人向け

□たんぽぽのキス
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さきほどから、紅茶の香しい匂いが立ち込めている。
いいから座っていろ、と、ソファへ促されたさくらは、小奇麗で質の良いそこに、すとんっと落っこちて。

―キッチンでは、小狼が手早くお茶の用意をしていた。
さっきマキさんのお店で一緒に買った、アールグレイの香り…

『あ、このたんぽぽさん…』

綺麗な硝子のコップに咲いた一輪のたんぽぽ。
小狼の家のリビングで、さくらは硝子のコップに手を伸ばす。
整理整頓をされたちょっと殺風景な空間に不似合いなその姿が、昨日の余韻を思い出させた。

―そう、昨日の…

…薄曇りの夕方、ふかふかしたお布団のような日差しに包まれて、さくらは精一杯、甘いキスを受け止める。

いつまでたってもキスは慣れない。
そう、手持ち無沙汰に出したままの手を、小狼の首に巻き付ける術も知らない。

その感覚を麻痺させるような唇の感触に、心もカラダもとろけてしまいそうになる。
ただ指先だけが力なく空をさ迷い…。

…急に、小狼がぎこちなくさくらの深いところまで入りこんでくると、頭が真っ白になって…
カラダの奥から溢れていく思いが、言葉を紡ぎだすことすらできずに。

『う…んっ、…』
そんな色っぽいさくらの声に、小狼は心をかき乱され、思わずさくらを青く香る若草の上に押し倒した。

パサ…
春の香りが鼻をくすぐり抜けていく。
いつまでも夢の中にいたくて、さくらが目を伏せようとした時、
横目に映ったたんぽぽ―

あの時の、たんぽぽさん…
思い出して、さくらは身体を熱くする。

そう、言い尽くせない気持ちを伝えきれずに、切なくて手のひらを握りしめた時に、さくらはたんぽぽを握ってしまったのだ。
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