オハナシ

□ホワイトデーまであと何日・・・
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ホワイトデーまであと6日

クッキー、マシュマロ、キャンディ・・・

甘いお菓子に、
彼女の大好きな花と小さな贈り物を添えて。

あなたの気持ちを届けましょう―

◆◇◆◇◆

2月12日放課後―・・・

『小狼くん、これ・・・』

ふとさくらとの間に仲間たちの影が途切れた時、さくらは学校指定のバッグからそっと小さな包みをだした。

『バレンタインの、』

どきっ、

オレの耳元で、鼓動が高鳴った。

心臓がばくばくするとは、こういうことをいうのだろう、
頭の先から湯気がでているんじゃないかと、肩をすくめて目をそらした。

2月14日はバレンタインデー。
好きな人にチョコレートを贈る日。
・・・そんなこと、普通に生活していれば嫌でもわかる。
テレビからは、連日のようにバレンタイン特集が流れ、街に出れば赤やピンクのハートが飾られている。
雑誌にはご丁寧に手作りレシピが並び、同級生達は、もっぱらその話題ばかりだ。
お菓子会社がお菓子を売るために仕掛けたイベントだとは分かってはいるが、
・・・チョコレートを準備する人たちの幸せそうな顔を垣間見ると、

・・・こういうのも悪くない、

そんな気になるのだから不思議だ。


『・・・小狼くん、明日から香港に行っちゃうでしょ?』

『・・・あ、ああ、旧正月の行事があって、』

『だからちょっと早いけど・・・』

えへへ、眉を下げてさくらがはにかんだ。

『・・・いつもありがと♪』

はい、そういってオレの手にピンクの紙袋を渡した。

かあああ・・・っ手にした小さな重さに、オレは耳まで熱くなる。

さくらからもらった、バレンタインのチョコレート・・・―

昨日ケーキ屋で見た看板の言葉が頭をよぎる。

《とっておきのダイスキを、あの人に・・・》

(こ、これは、その、・・・)

ダイスキの4文字が頭の中を駆け巡った。

さくらの口から出た言葉ではないはずなのに、自分の手の中になるピンクの包みが『ダイスキ!』といっているようで。

オレの心臓が飛び出しそうになる。

『あ、あ、あ・・・』
ありがとう、といいたかった。


チョコレートと、

・・・さくらの気持ちに。

嬉しすぎてうまく口がまわらない、
手が震えて、小さな重みすら落としてしまいそうだ。


ごくり、

オレは意を決して、さくらに向かう。


『・・・あ、あり・・・』

その時―


『さくらちゃ〜んっ』

・・・喉まで出かかった言葉を遮って、三原がさくらを呼んだ。

『あ、千春ちゃん!』

『ここにいたんだあ。・・・チア部の先生が、すぐに来てくれって』

『あ、は〜いっ、今行くね!
・・・ごめんなさい、小狼くん。
今日は放課後、野球部の応援なの、これから出発するって先生がいってたから、』

さくらが手にしていたバッグに視線を注ぐ。

『・・・そうか、』
乾いた言葉が1つ、やっと出てきた。
手に汗がにじみ、ずっと緊張していたんだと驚く。

『・・・香港からの帰り、待ってるね♪じゃあまた、ね♪』

『あ、あの・・・』

『早く行こうよ〜』

『はあい♪』

さくら―・・・

オレの呼びかけもむなしく・・・

さくらは小さく手を振るとラインの入ったスカートをひるがえして三原の方へ駆けて行った。


『ありがとう、と言いたかった。』
香港から戻ってきたら、なんとなくうやむやになってしまった。

1年生だというのにメインのセンターポジションを踊ることになったさくらは、チアリーディング部の練習に忙しい。
なかなか二人きりになることが出来なくて。

そうしているうちに・・・
すぐに期末テストの準備に入ってしまった。




明日につづく
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