オハナシ

□エビフライ
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―チョコレートのお菓子に、新しいお洋服、かわいいぬいぐるみとか。

自分がもらって嬉しいものならわかるの。

でも。

―お兄ちゃんに教えてもらって、足を運んだスポーツ用品店。

シューズやバッグに、リストバンド。
…オトコノコってどんなものをもらったら、嬉しいんだろう。


大好きだから、
だから、彼が喜ぶものをプレゼント、したいー

◇◆◇◆◇◆◇

―毎年、こうなんだよね。

さくらはどんよりとした雲を見上げて、その翡翠色の瞳で軽くにらむ。

…友枝町付近の梅雨明けは、7月20日頃。
それまでは、雨が降ったり止んだりすっきりしない天気が続く。

レインさんも大忙しねっ、…少しは休憩したらいいのに、苺ミルクの紙パックのストローをちゅーっと音をたてて飲み干してから、はう〜とテーブルに突っ伏した。

―あと、12日。

小狼の誕生日までの残された時間。
友枝町商店街のめぼしいお店は全部回った。でも、なかなか納得がいくものが見つからない。

…というか…さくらには、小狼が何が欲しいのか、検討がつかないのだ。

「…何してるんだ、オマエ」
平べったく突っ伏しているさくらの上から、愛しい人の声が降ってきた。
トレイには、友枝中学食で一番人気のAランチが乗っている。

「しゃ、小狼くんっ…」
さくらは恥ずかしそうに頬をかいてから、小狼の顔をじっと見る。

「もう、食べたのか?」
小狼は、さくらの目の前においてある桜色のお弁当包みを指す。

「う、ううん、待ってたんだっ」

そういって、藤隆が心を込めて作ってくれたお弁当箱をあわてて開く。


―プレゼントを選ぶには、嫌いじゃない。
それが、家族でも友人でも。
どんなものが喜ぶかなって、考えてるだけでわくわくしちゃう♪

なのに…

…その長い指がスマートに割り箸を割る姿に、うっとりと見とれる。

それはきっと…私だけにみせる、心がほこほこしちゃう彼の笑顔に…
とりこになっているから…なんだ…

その笑顔がみたくて、

…素敵なものを選びたい。


「…なんだ?」
小狼が、さっきからじっと見つめているさくらの視線に言葉を投げかける。

「エビフライ、欲しいのか?」
そういって、さくらの前に揚げたてのそれを差し出す。

「う、ううんっ、」
さくらが弁解しようと小さなお口を開けた瞬間に、香ばしい味が口いっぱいに広がった。

「おいひい…」

「…だろ?」
この学食のエビフライは絶品なんだ、と、小狼は言った。油がいいのかそれとも、衣か。いや、食材は業務用だろうし…
箸をつかんだまま、顎に手を当てそのエビフライをじっとにらんでいる。

さくらはもぐもぐしながら、今がチャンスだ!と、思った。
どさくさにまぎれて聞いてしまおう、と。

「ねえ、小狼くん!」

「今度はなんだ?」

「もうすぐ、小狼君の誕生日だね♪」

「ああ…」
相変わらずエビフライに視線を落としたまま、小狼はそっけなく返事をする。

「でね、小狼くん…今、一番欲しいもの、何か…ない?」

「え?」

小狼が驚いて、さくらの方を見た。

「一生懸命考えたんだよ!でも、何をプレゼントしたらいいか思いつかなくて…知世ちゃん達に相談したら『李君は、さくらちゃんから貰ったプレゼントなら、何でも喜びますわ♪』っていうし…

でも、折角の誕生日だから、小狼君が今、一番欲しいものをプレゼントしたいって思ったの!あ、でもあんまり高い物は買えないけどね、」

勢いに任せてそこまで言うと、さくらは懇願したような瞳を小狼に投げかけた。

塗り箸を置いてから、小狼は暫く考えている。
さくらはその答えがでるまでの時間が永遠に感じるくらいで、ドキドキしてしまった。

「今、一番欲しいもの…なら、ある」

「えっ!!なあに?」

さくらは向かいの席に座っている小狼に詰め寄り、答えを待った。

が。
小狼はいいずらいのか、中々口を開かない。

「…小狼くん、もしかして、私が買えないくらい高いものなの?」

「…いや、オレが欲しいものは…絶対、お金で買っちゃいけない…とても大切なものだから…」

「大切なもの?それってなあに?」

さくらがきょとん、とした瞳で聞く。
その表情があまりにも無邪気すぎて、小狼は頭を振り、そして黙ってしまった。

―お金で買えない大切なものって何だろう?
さくらが上目使いに瞳をぱちぱちさせながら考えていると、小狼が意を決したようにいった。

―さくら、 と乾いた声でその名を呼んで、真っ直ぐにその瞳を見つめる。

二人の周りを取り囲むざわめきも、遠のいていく。

「オ、オレは…オレはオマエが欲しい」
消え入りそうなその言葉を何とか掬い取って、さくらが聞き返した。

「ほえ?私?」

やっぱりきょとんとするさくらに、予想通りだ、とため息をついて、意味が判ってないのかと、心の中でつぶやいた。

「…いや、いい。何でもない。さくらが一緒に誕生日を祝ってくれるだけで…一緒に居られるだけで、オレは充分だから、」

「でも、」

キーンコーンカーンコーン

二人のあいまいな空気を予鈴の鐘が打ち破った。

「戻ろう。…本当に気にしないでくれ。」

「うん…」

納得いかない表情をするさくらに、小狼はなぐさめる様に言った。
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