オハナシ

□Happy Birthday☆
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1、

『いらっしゃいませ』

小狼は、女の子たちが通いつめるショップの扉を開いた。明らかに場違いな少年は、難しい顔をして店内に入る。

ピンクやイエローのパステル色がひっくり返ったような品物たちはみな、かわいい持ち主さんが迎えに来てくれるのを今か今かと持ちわびている。

どれも中学生の小狼には不似合いの、ファンシーなものばかりであった。

『うっ…』

いつもはかわいい彼女がそばにいるから違和感がなかったが、少年一人の姿は明らかに浮いていた。こんなお店に一人で入るのは勇気がいったはず。

それでも小狼はここであるものを手に入れなくてはならなかったのだ。



それは昨夜のこと。

『ええ〜!!まだ用意していないのっ!』

電話の向こうで苺鈴は大げさに声をあげた。

『う…うん…』

『木之本さんの誕生日まであと1週間しかないじゃない!早くプレゼントを用意しなきゃだめよ、小狼!』

苺鈴は受話器でうなだれる小狼にハッパをかける。

『わ、わかっているよ…』

小狼はまいったなと頭をかき、苺鈴の言葉に耳をかたむけた。


『…これはメールしなくちゃ!』

『え?なんかいったか?』

『なんでもないのよ。おほほほほ』

『なんかその笑い、大道寺みたいだぞ』

苺鈴はあわててごまかし、小狼にいった。

『とにかく、これからわたしがプレゼント候補をいうから、小狼、メモしてね!』

苺鈴の恋愛講座はそのまま長時間続いた。



『は〜っ』

小狼は大きなため息をつく。

『まずは…ネックレス??』

目の前には、髪飾りのようなものやネックレスがキラキラ輝いている。

『ど、どれがいいんだ…』

必要以上にどきまぎする。

…みんな同じにみえるぞ…

『や、やめよう…』

アイツはくまのぬいぐるみとか好きだよな…

そして思い出す。
アイツの部屋の一番いい席に、小狼が作ったくまはおいてあった。

とても大事そうに…

『く、くまは…やめよう…』

大事にされているのがまるで自分のようで、小狼は頬を赤らめ頭をかいた。

『で、次の候補は…』

昨日メモした紙に目を落とす。



「指輪」……

『って、おいっ!!』

小狼はさらに赤くなりながら、仕掛けた苺鈴に突っ込む。

指輪が置いてあるコーナーをちらりと見る。

目に映るアイツの細くて長い指。

一瞬触れたことがあるけれど、あたたかくやさしい。
自分ですら、その美しい指先を絡ませたことはほとんどないというのに、指輪は繋がれているなんて…小狼は、軽く嫉妬した。

『いや、ダメだ、これは…』

これはまだ…小狼が慌てふためいていると…



『李くん?』
後ろからおなじみの声がした。

『だ、大道寺…』

知世はまるで最初からそこにいたかのように、微笑んで立っていた。

『さくらちゃんへのプレゼントですの?』

『え、い、いや…その…』

『そうなんですね♪』

大道寺には何でもお見通しらしい。

ふふふ…と知世が笑い、そしていった。

『好きなヒトからもらったものは、何でも嬉しいものですわ。それが消しゴム1個でもシャープペンの芯一本でも…』

『わ、わかってる…』

『それが「モノ」でなくても。さくらちゃんはふんわりさんですから…ご自身で気づいてないこともありますの。だから…』


知世は声をひそめて言った。


『…李くんの欲しいものが、さくらちゃんの欲しいものですわ。』


そしてまたいつものように姿勢を正して笑った。


オレの欲しいもの…がアイツの欲しいもの?

知世と別れてから、小狼は先ほどの言葉の意味を考える。

『う…』

また頭が痛くなってきた…っ

…本当はわかっている。

でも口に出してしまったら…

『さくらちゃんはふんわりさんですから』

先ほどの知世の声が響く。

小狼は赤く染まった夕日を背にして、帰路についた。



『…負けじと劣らず、李くんもふんわりさんですから』

『ふんわりというか〜、とろいのよ!小狼は!』

苺鈴は身体は機敏なわりに女の子の気持ちには疎いいとこの事を考えた。

『楽しみですわ、1週間後が。おほほほほ』

『大道寺さんも好きね〜』

恋の行方を楽しむ少女たちの長電話は深夜にまでおよんだ。
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