オハナシ
□翼のないトリ
1ページ/5ページ
1、
『…トリさん、何でずっとないているのかな?』
夕暮れの間際を歩く2つの影。
蜂蜜色の髪を夕陽に染めて、少女はぽつりと呟く。
耳をすますと、確かに低く、深く…木々が揺れる枝からその声が聴こえてくる。
『…仲間を呼んでいるのか…?それとも…』
少年はじっ…と、想像力を働かせて答える。
翠色の瞳を携えた美しい少女は、ほんわかとしながらも時々突拍子もない事を話し出す。
『…ううん。なんか…歌っているみたい…』
静かな、重い旋律。
すべての音が遠のく。
まるでこの地球上にひとりぼっちにされたようで…。大きく息を吸うと胸がきゅっ、としめつけられて…うまく呼吸ができない。
『さくら?』
すべすべしてそうな顔はいつもよりも透き通り…青白く見えて。自分よりもずっと下にあった瞳を覗きこむ―
…葉と白い羽を震わせて歌声の主が飛び立つ。
さくらは、つらそうに、ふと一呼吸おいて。
『ひとりぼっちなのかな…』
消え入りそうな声でつぶやいた。
『え?』
その声があまりにもはかなくて、小狼は聞き返すが・・・
『…ううん、何でもないっ!…行こっ、小狼くん!』
いつもと同じような桜色の頬に笑顔を咲かせたさくらの様子に、小狼はちょっとだけほっとしながらも、心の奥に生まれた不思議な予感を感じずにはおれなかった。