□ケーキの後は、
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梅雨明けが待ち遠しい友枝町に、今朝も優しい雨が降りそそぐ。
もうそろそろ出番も終わりかと、残りわずかな花の生命を灯した紫陽花が精一杯葉を広げていた。

『う・・・ん?』
まだ目が醒めきれていないさくらは、握った左手の拳で目をコシコシこする。

・・・雨の朝は、いつまでも寝ていたい気分、
だって雨の音色って、心地よくって。まるでお水の中にいるみたいで、
・・・なんか懐かしいんだもん。

さくらは翡翠色の瞳をぱちぱちと瞬かせると、小さいあくびをひとつこぼした。

そして、大きな伸びをしてはじめて・・・、
その場所が、いつもと同じ自室のベッドとは違うことにようやく気づいた。

上質のカーテンからは弱い光が漏れ、外が雨降りだということをうかがい知ることができた。
整頓された部屋の隅には、持ち主が大切に使いこんでいるシンプルな机と椅子、
毎日拭き清められていて、すべての衣類がいつも同じ場所に納められているはずの低いタンス。
そして、その部屋にある「きちんと感」とはまったく不似合いなのは・・・
・・・おそらく脱いだままになっている桜色のワンピースと、大きな白いシャツが重なっているところだろう。

辺りを見回して、床まで目を落としたさくらははっと我に帰り、次の瞬間、自分が一糸纏わぬ姿で白いシーツの中に包まっていたことに気づいた。

『はうううっ、』
さくらはすべすべと肌触りのよいシーツを大急ぎで手繰り寄せて、小さなドームを一瞬で作り上げると、その中に頭を隠した。

広がったはちみつ色の髪からは、自分のうちとは違うシャンプーの香りがして・・・昨日どんなことがあったのかを自分の身体が教えてくれた。

(そうだ、わたし・・・
昨日は小狼くんのお誕生日で・・・
それで、そのまま小狼くんのおうちにお泊りしたんだった・・・)

・・・かあああああ、
昨夜、このベッドの中であちらこちらに刻まれた愛の印が、急にほてっていく。
さくらはシーツに顔をうずめて、困ったように眉を下げた。
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