□あ、のことば。
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『お誕生日おめでとう!!』

満面の笑みを浮かべたキャラクターたちが、小さな恋人達をぐるり囲む。
くすくすくす、
はちみつ色の髪を弾ませて、さくらの笑顔が咲いた。

誕生日に一番近い、日曜日―

『小狼くんの誕生日は平日だから・・・その前の日曜日にお出掛けしようよ♪』
さくらと小狼がそう指切りしたのは1週間前のことだった。

梅雨が明け切らない夏空には、あいにく大きな雲がゆっくりと浮かんでいたが、
それでも、一丁前に夏を主張している。

『・・・ったく、なんなんだ、あれは・・・』
ピンク色をした大きなぬいぐるみにもみくちゃにされて、緩んだポロシャツの襟を正した小狼が言った。

『・・・だって、今日は小狼くんのお誕生日お祝い、だもん♪』
・・・・仕方ないよお、笑いが止まらないさくらは細い指先で、小狼の胸についている「おめでとう」バッチにつんと触れた。

友枝遊園地の新しいイベント―
お誕生日にこの遊園地を訪れると、かわいいマスコットキャラクターやアトラクションのスタッフはもちろんのこと、売店のおばちゃんまでこぞってお祝いしてくれる、という楽しい企画でだった。

『・・・お誕生日おめでとう!』
また、すれ違いざまにスタッフに声をかけられた。

『あなたもお誕生日なのね・・・おめでとう!』
反対側から来たさくらたちよりも年上のカップルが、小狼のバッチをみてお祝いの言葉をかけてくる。
『あ、ありがとう、』

今まで生きてきて、こんなにたくさんの人にお祝いされるとは・・・
小狼もはじめての経験だった。
小狼もすかさず、お礼の言葉を口にしようとするが、ニコニコしている人たちはまるでそれが当たり前のことのように振舞っていたのだった。

『・・・まるで、おめでとう、が、挨拶代わりみたいだね。』

『・・・ああ、』
でも、なんだろう、悪い気はしないのだから、
・・・不思議だ。
小狼はおめでとうの言葉をもらう度に頬を染めながら、丁寧にお礼を言った。
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