□ほしにねがいを
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『ねえ、おにいちゃんは、なんてかいたの?』
まだ舌っ足らずな小さな妹はそういうと、ダイニングテーブルの自分の手元を覗きこんだ。―めいいっぱい背伸びをして。

『…教えねえよっ』
桃矢は目の前にあった青い短冊を、すっ、と黒いランドセルの中に隠した。
その様子に、いつも変わらず優しい瞳をした父だけが、ますます笑みをこぼす。
その、妹想いの優しい願いに―


―7月7日、木之本家のいつものダイニングで。
藤隆、桃矢、さくら・・・家族が顔を揃え、色とりどりの折り紙にハサミを入れていた。

さくらが幼稚園からもらってきた笹は、2階の部屋まで届きそうな大きさで。
・・・まったく、どこに置くんだよっ!、と、桃矢は目くじらを立てて言う。

そんな兄の言葉はまったく届いていないさくらは、

『たくさんたくさん、おかざりつけるんだ♪』

そう言って、自分のお道具箱から、とっても大切にしている、金と銀の折り紙を出してきた。

『さくらさん、それ・・・いいんですか?』
藤隆が、心配そうに聞く。

様々な色が入っている折り紙セットの中で、金と銀は各1枚ずつしか入っていない。
さくらは、幼稚園でもらうたびに、大切に鞄に入れて持って帰ってきていたのだ。

『うん♪いいの!・・・だって、おほしさまみたいでしょ?』

そういって、危なっかしい手先で、ちょきちょきハサミをいれた。

『え〜っとお…こうして…はしっこにのりをつけて…』

正方形を6等分に切った、細長い折り紙に、のりをつけて輪にしていく。

一つできたら、またその輪の中に、細長い折り紙を通して輪を作っていくと、輪つなぎと呼ばれる飾りが出来上がるのだが…

・・・まだまだ不器用なさくらは、上手くできない。

『せんせいは、こうやってつくるっていってたのにぃ〜』

さっきから一生懸命折り紙と格闘していた小さな妹が、うっすら涙を浮かべそうになる。

―まったく、コイツは、

桃矢は、無言でさくらの折り紙が取り上げると、器用に折り紙で輪を作り、さくらの前で作ってみせた。

さくらがよく見えるように―


『すごいっ、おにいちゃん、ありがとう♪』

自分と同じ春の花の名前を持つ妹は、その名前の通りに笑顔を咲かせた。
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