オハナシ
□花粉症にご注意!
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『失礼します・・・』
とんとんとノックした後、静かに保健室のドアが開く。
応答がないことを不思議に思い、小さな隙間からさくらが顔を覗かせた。
『ほえ?保健室の先生、いないみたいだよ・・・』
南向きの窓からは弱い冬の日差しが差込み、白いカーテンをくすぐっている。
友枝中は全室冷暖房完備のため、たとえ使われていない教室でも、他の教室と同じ温度と湿度に保たれていた。
急病人が休むにはちょっと熱いくらいの温度になっていた保健室にさくらが入り込む。
『ああ、どうやら出張らしい、』
ポケットに手をつっこんでいた小狼は、ドアの脇にかけてあった【一日不在】のプレートをコンコンと叩くと、ずずず、と鼻をすすった。
『・・・お薬、もらえないねえ・・・』
しゅん、小狼の鼻詰まりを横目でみたさくらが肩を落とす。
2年A組の廊下からここまでさほど距離はないというのに、その間小狼は数え切れないほどのくしゃみをしていた。
―このままじゃ、きっと小狼くん辛いだろうし・・・。
何とかしてあげたいな、・・・
う〜む、小さな人差し指を口元に当てて考え込んでいるさくらを背に、小狼は整頓された白い薬棚を物色した。
『・・・おそらく、この箱にはいっているだろう。』
だいたい、そういった類のものは、この辺りに保管しているはず。
ギー・・・
立て付けの悪いガラス戸をあけて、木箱に手をのばした、その時―
『・・・レリーズ!!』
『な、なにっ!?』
急に風を巻き込んだ魔法の気配に、小狼は振り返って反射的に身体を身構えた。
さくらの足元にはいつもの魔方陣。
うずを巻く魔力が、さくらのライン入りスカートをはためかせる。
『な、なにやってんだ、オマエ!』
そう声をかけたとしても、魔法を発動している最中はさくらの耳には届かない。
それでも、突発的な封印解除に小狼は声をあげずに入られなかった。
『さくら!?』
『【火】!!!』
精霊がさっそうと姿をあらわし、さくらに何かを手渡すと、ぐるりを見渡してまた元の場所に戻っていった。
ほわ・・・ん、
風とともに魔法の気配が過ぎ去っていく。
残ったのは、さくらといつもと変わらない保健室と、火が灯ったアロマキャンドル―
『オマエ、何を・・・っ、学校で魔法を使うな、言っているだろうっ!!』
『ほ、ほえっ?ご、ごめんなさいっ、・・・私、カードさんにお願いしないと火を使えないから、』
『そうじゃなくてっ、』
『・・・小狼くんは、すごいねえ♪魔法で、すぐに火をつけることができるんだもん♪』
不意打ちのようににこっと笑うさくらの横顔がかわいくて、小狼は口ごもった。
自分のことを誉めているのだからなおさらだ。
・・・相変わらず、さくらはこういうことには長けていた。
どうすれば好きな男を黙らせることができるかよく分かっているのだ。
これを天然でやっているのだから、…感心する。