オハナシ

□New Year 2010
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『来年の年賀状は、小狼くんに絵手紙書くね♪』

12月、もうすぐ冬休みにはいるという最後の授業。

―美術室から画材を抱えて戻ってきたさくらに出くわした小狼はそういわれた。

『・・・美術の宿題だろ?』

変わり者といわれている美術教師が出した課題は、冬休み中に絵手紙を描いて友人や親しい人に出す、というもの。

絵手紙とは、絵のある手紙のことであり、とくに決まった描き方や形式がない。

―だからこそ、生徒達は頭を悩ませた。

『自分が感じたことを、感じたままに自由に描きましょう。』
そういった美術教師の言葉にも生徒達はざわついた。

・・・大体にして絵手紙を、どのように成績評価するのだろうか、小狼たちは首をかしげたが。

それでもいつものように真面目に制作し、昨日提出印をもらったのだった。

『わたし、絵とか苦手だけれど・・・でも、絵手紙って描いてて楽しいな、って…
そんなにうまくないけど、小狼くんに送るねっ』

『ああ、・・・わかった、』

自分が感じたことを描く絵手紙は、案外さくらの得意とするところかもしれないな、
小さくはにかむさくらに、小狼の胸がきゅんと鳴った。

◆◇◆◇◆

『年賀状、っていっていたのにな、』

ハガキを裏返してそこに描かれた優しい文字に、小狼が微笑んだ。


ピンク色の花が紙いっぱいに描かれている様は、構図などおかまいなし。
ただ自由に、思うが侭に作り手が描いたということがよくわかる。

だからこそ、心がこもっていて胸が詰まりそうになった。


『今年もよろしくね。桜』

そうか、これは桜の花だったのか、

小狼は肩をすくめて笑った。

何を描こうかなと、上目遣いで考えこむさくらの姿が目に浮かぶ。
失敗しちゃったよぉ〜っ、あたふたするその横顔を容易に想像できる自分がいる。

あの時、一瞬でも、オレのことを考えてくれたのだろうか、

いつか聞くことができたら、と思うのだが。

その勇気が、オレの中にはまだ見当たらない。


『・・・今年はあと数分しかないぞ。』

今年もよろしくね、さくらの文字を指で撫ぜながら、小狼はふっと笑った。

切手の下に年賀の文字を書き忘れると、普通郵便として届けられるのだ。


本当にさくらは、

あわてんぼうで、一生懸命で・・・むちゃくちゃで、

でも

・・・あったかい。


自分の吐いた白い息で、視界がさえぎられる。

小狼は冷えた外気から逃れようと、緑のマフラーにぬくもりを探した。

・・・なんとなく、さくらの香りがする気がして。

さくらの思いがいっぱい詰まった絵手紙を手にしたまま、小狼はしばし、その場に立ち尽くした。


◆◇◆◇◆
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