大人向け
□ねこ、ネコ、猫。
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『にゃにゃにゃ♪』
唖然としている小狼の前に、お行儀よく座った白い毛並みのネコは、さっきから小狼にむかって何やら話しかけているようにも聞こえた。
いや、きっと話しかけているのに間違いはない、なにしろこの白猫は「さくら」なんだから―
『お、おいっ!さくら!!』
小狼は小さな子猫に視線を合わせて話しかける。
顔も髪も目の色も、いつものさくらと程遠いというのに、瞳の奥にあるあたたかさはさくらのものであった。
『にゃにゃ♪』
『にゃにゃ♪・・・って、オマエどうするんだよ、』
【替】のカードによる魔法の期限は、丸1日。
とにかく、明日の夕方までに心が入れ替わった存在としっかり抱き合うことで、元に戻る、というのはクロウ・カードだった頃の使用方法だった。
―だが、さくらカードが同じだとは限らない。
『とにかく、今すぐ元に戻るんだ、』
小狼があわててそう白猫「さくら」に言うと、まるで本当のネコのように伸びをした猫「さくら」が、ぴょんっとかろやかに窓辺へジャンプした。
器用に小さな猫手で窓を開けると、白い柔らかな毛を秋風に吹かせている。
そして、急に振り返ったかと思うと、
『にゃん♪』小さく声をあげた。
その声が、『すぐ戻るね♪』と聞こえたような気がして、小狼が窓辺に駆け寄った時にはもう、猫「さくら」は窓から見える大きな木の枝へ飛び移っていた。
『お、おい・・・』
小狼も追ってその木に飛び移ろうとしたが、あまりの慌てぶりにあやうく下へ落ちそうになった。
顔を上げたときは、外の世界をまるでスキップしているかのように歩く猫「さくら」の後姿だけが・・・小さくなっていくのがわかった。
『はあ〜・・・』
まあ、さくらも魔力が強くなっているし、おそらく有効期限に関係なく対象物と抱き合えば、すぐに元に戻るのだろう、どうやら【替】のカードを使い慣れているようなさくらの様子に、小狼は心配ながらも少し待つことにした。
『まったく・・・さくらは・・・』
クロウ・リードよりも面白い使い方をする、とケルベロスもいっていたっけ・・・取り残された小狼は、とすん、さくらのベットに座り込んだ。
が―。
『んんにゃっ!!』
『うわっつ!!!』
自分のお尻の下にある、柔らかな感触・・・
も、もしかして・・・
小狼がおそるおそるさくらのベットをめくると・・・
そこには、さくらと心が入れ替わったネコの「さくら」が、おびえた表情で隠れていたのである。