オハナシ

□Summer Vacation!
4ページ/36ページ

…―

狭い隙間の中で。
私と小狼くん、二人きり。

…さっき私が首筋に感じた冷たい感触は、どうやら小狼くんの持っていた仕掛けだったらしい。

お化け役も怖い演出もない、ただの夜の学校が本当は一番怖いんだ、
そう、奈緒子ちゃんが言って小狼くんに渡したのは、“こんにゃく”。


校内を一人で歩いてきた人を怖がらすのは、これだけで十分だと。

そして、
誰もいない、と感じたのは…

『オレが気配を消していたからだ、』

さくらに気づかれないようにするくらい、簡単だ、といいたげだった。

知世ちゃんは途中から、別のコースに行くことになっていたみたいで。

私は心底ほっ、とした。


『な、なんで…』

小狼くんが、私を胸に抱いたままで。
視線は廊下に向けたまま、ぼそりと言った。

…薄暗がりで、その表情がみえない。
汗ばんだ大きい手が、私の肩を強くつかむ。

恐怖で冷えきったはずの私のからだが、小狼くんの温もりでなぜか火照ってくる。

『なんで…』
小狼くんがもう一度繰り返す。

『ほえ?』

『オレの名を…?』

『…だって、小狼くんはいつも私を助けてくれるから、』
そう素直に思ったことを口にした。

あの肝試しの時―
落ち着け、と泣いている私を強いまなざしで勇気づけてくれた小狼くん。

そう、いつもこれからも。
小狼くんと一緒なら、絶対大丈夫だから―

小狼くんが急に、はしっ、と、口を押さえている。

『ほえ?』
どんなお顔しているのか、よくみえない。


ぬくもりが名残惜しくて、なかなか離せない小狼くんの腕から、私はしぶしぶと立ち上がろうとする。

『…知世ちゃんが心配しているから…』

も、戻るね、そう言って小狼くんの顔をのぞきこむ。

『…大丈夫か?』

いつもの澄んだ瞳が、一瞬曇ったようにみえたのが暗闇の中でもわかった。

怖い、とも違う…

まるで小さな男の子が、お母さんとの短い別れを悟っている時のような寂しそうな瞳。
いつまでもぬくもりの中に包まれていたいのに、と言ってる時のようで。

そうだよね、
私も小狼くんに触れたら…

もう、離れたくない…


…私は、大袈裟に頭をぷるぷる振ってみせた。

『…大丈夫、じゃない、』

『え?』驚いている小狼くんの顔に胸がくすぐられて。

『だから、もうちょっと…ここにいさせて?』

私は冷たい床にペタンと座った。


◇◆◇◆◇◆

一緒にいたい、と思うのは、女の子も男の子も同じよね〜?
しかしぽややんさくらちゃんが、こんなに敏感に小狼の気持ちにきづいて、そばにとどまってくれるのは…思えない(笑)
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ