オハナシ

□Summer Vacation!
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『だ、誰か…いませんかっ?』
階段を昇りきると、目の前に広がった廊下を、出口方向に立つ。

むなしく響く、自分の弱々しい声。

誰もいない、みたいだ…

脅かし役がいっぱいいるんだよ、って奈緒子ちゃんは言ってたけど・・・。

私は、おそるおそる辺りを見回す。

この階には、あのおどろおどろしい廃墟セットがまったくなく、ただ見慣れた廊下と教室の入り口がいつも通りに並んでいる。

ペタペタと、私の足音だけが耳について。

胸が詰まるほど、“一人”を感じた。

とにかく、出口までいかなくちゃっ…

私は、早足で前に進む。

どの教室からも人の気配がしない。

文字通り、“誰もいない”空間で。

…嫌でも思い出す、数年前の肝試し。

臨海学校での、夜のお楽しみ。
二人一組で祠まで行って、手にした蝋燭を置いて戻ってくるというコース。

まっくらで不気味で、そしてお化けが怖かった。

けれど、一番怖かったのは…

―次々と消えていく、お友だち。

そして…

『李くんっ!』

私の目の前でからだが消えそうになる間際に、小狼くんが言った。

『みんな消えたままでいいのかっ』

『…イヤっ!』


怖い、んじゃない。
誰にも消えてほしくないんだ。

次の瞬間、強く感じた【消】のカードの気配―。


あの時と同じだ…
私は光もない、出口の先を見つめる。

今、誰もいない…


ううん、もしかして…
誰もいない、んじゃなくて、みんな消えちゃった、の…?

暗闇ではイヤな予感すらも膨らんでいく。
とにかく、なんとか出口までたどりつこう!、私は駆け出そうとした時―


ひたり…
首筋に、冷たい“何か”の感触―

誰の姿が見えない、この場所で。
自分ではない、別のモノ。

こわい、こわいっっ!


『しゃ、小狼く〜んっ!』
つい、口から飛び出した名前。

地の底から這い出したゾンビのような声で叫びそうになった時、小さく開いていた教室のドアから伸びる長い腕が、私をそこに引きずりこんだ。

机が重なった、小さな隙間にいたのは、


『しゃ、しゃおら、ん、くん…?』

私は引き寄せた腕の主を見上げて、言葉にならない声を上げた。


…薄暗がりに映るいつもの、大地のまなざし。
人差し指で、シー、とやってみせると、さらに私を自分の懐に引き寄せて、持っていた釣竿に吊り下げられた何かを、開いたドアからそぉーっと出す。

『しゃ、小狼くん?!』

『しっ!』
今度ははっきりそう言ってから、私の肩を抱き寄せる。

机が並んだ小さなその場所は、もう身動きできない。
私はやっと見つけた、とくんとくんと流れてくる小狼くんの温度に、安心して涙が出そうになった。

―闇の向こうから来たのは、さっき順番待ちをしていた自分の後ろにいた女の子。

きゃ〜と、声をあげて走りさる。

小狼くんは、顔色変えずに“お客様”が去ったのを確認すると、その釣竿を手元に戻した。

『こ、これ…』

釣竿についていたのは…

『こんにゃくだ、』
小狼くんがへの字口で言った。
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