オハナシ
□Summer Vacation!
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『…さくら、大丈夫かっ?!』
栗色の前髪が、雨に濡れてくりんと形を作っている。
上に羽織ったパーカーは、私が誕生日にプレゼントしたもので。
…あの時と明らかに違う色をしているのは、びしょ濡れだから。
はあはあと肩で息をしながら、小狼くんが私の肩をつかんだ。
真剣なまなざし―
頬を伝う、無数の雨粒―
どんな演技派の映画俳優よりも、今私のことを本気で心配してくれている、目の前にいる彼の瞳に、すい込まれていく。
『さくらっ?!』
眉をしかめる小狼くんの腕に、私の居場所を見つけた。
ふっ、力が抜けた私の身体を、強い腕で抱き止めてくれて―
触れ合う、優しいぬくもり…
『小狼くん…きてくれてありがとうっ』
『ばかっ!…約束、したじゃないか、』
はあ・・・ぬれた髪をかきあげて。
『…でもやっぱり…』
『…え?』
言葉の続きを、見上げた瞳で聞き返す。
『…これからは、さくらの家まで迎えにいくことにするっ、』
雨が、駆け足で通り過ぎていく。
遠くにみえる雲の切れ間から、青空が顔をだしていた。
…真面目な小狼くんだから、
時間ぴったりに家のインターホンを押すだろう、
これからは、待ち合わせ場所に駆けてくる顔は見られないけど、
ドアを開いた向こうに必ずあるはずの、私の大好きなおこりんぼ顔が浮かんで…
こくり、小さくうなずいた。
◇◆◇◆◇◆
今日の雨はすごかった。
雨の中でひとりぼっちは寂しいよね。