オハナシ

□Summer Vacation!
25ページ/36ページ


『キッチン、お借りするね♪』

きれいに整頓されたままのキッチンは火の気がなくて、昨日からまったく使っていないようで。

『何を作ろうかな…』
う〜ん、顎に指を当てて考える。


『…さくら、「アレ」が食べたいな…』

ふわり、小狼くんのシャンプーの香りが後ろから覆い被さった。

『ほえ?!』
私の上半身に、小狼くんの重みを感じる。

眠そうに、ぽや〜んとして。
私の首に腕を回し、プラプラ揺れる。

…まるで、母親に甘える子どもみたい。

きゅん、と小さく胸が鳴ったけれど、
知らん顔して、答えた。

『ホットケーキ?』

『…うん、』

変わらず、私の背に身体を預けて、そう短く返事をした。

『…ちょ、ちょっと待ってねっ、』

私は素知らぬふりで、小狼くんの腕から逃れる。


…本当はもうちょっとこうしていたかったけど。
お腹をすかせた小狼くんに、急いで作ってあげなくちゃ。

いつもの場所にある、ホットケーキミックスに、卵、牛乳。

棚からボールを出して、泡立て器も必要。

てきぱき準備する私の横で、キッチンに作り付けの棚に寄りかかりながら、小狼くんは眠気眼で頭をかく。

『座ってていいよっ、』
私がそう言ったのは、
小狼くんが3度目のあくびをした時。

フライパンには1枚目のホットケーキの液が流し込まれた。

『イヤだ…』

『えっ、』

ほわん、…また後ろから小狼くんの匂いに包まれる。

『危ないよ、火使っているしっ、や、火傷しちゃうっ…』

びくん、
さっきとは違う、今度は耳元に。

熱い吐息が触れて…

背中に甘い感覚が走るー

私の首に腕を回したまま、フライパンのホットケーキを指さして。

『…ほら、プツプツしてきた。』

生地に小さな穴が見えてきたら、裏返すサイン。

なのに。

もう一度、さくら、と、耳のそばで甘くささやく。

『…っ』

もう、ホットケーキがひっくり返せないよお…っ

段々と膝から下の、足の力が抜けていくのがわかり…

名を呼ばれただけで、全身を巡るなんともいえない感覚にゾクゾクと肩を震わしながら、
私は首に絡まっている強い腕にすがるしかなかった…


―…

『こ、こげちゃったっ…』
私はポリポリと鼻をかく。

テーブルには、真っ黒こげのホットケーキと濃いめのブラックコーヒー。

『さくらが作ってくれたものだから、』
小狼くんが、素知らぬ顔であ〜んと口に運ぶ。

…ホットケーキがこげちゃったのは、誰のせいよっ

キッチンでの戯れなんて知らないよ、というかのように、シャワーを浴びてスッキリした顔をしている彼を軽く睨む。

いつものようにそっぽを向いて。

『…昨日、寝ていないから、今日はうちでゆっくりしたいんだけど、』

視線を反らしたまま、小狼くんがそういった。

―ホットケーキが焼き上がる時間は約5分。

…さっきの、
キッチンでの熱い抱擁だけでは、物足りない、小狼くんも、私も…。


ゆっくりしたい、そう言った小狼くんの言葉の意味に、ぼおっと頬が赤くなる。

『…う、うん、』


私は、そううなずくしかなかった。

◇◆◇◆◇◆

火のそばでイチャイチャしては、いけません(笑)
さくらちゃん、通い妻みたいですvv
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ