オハナシ

□Summer Vacation!
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☆ドッキドキ★温泉旅行☆

緑豊かな山間をぬけると、すぐに清流の音が響いた。

『うわあ〜、きれい〜』
川沿いを走る木之本家の車から、身を乗り出すようにさくらが感嘆の声をあげる。

カーウィンドウから吹き込む、涼やかな風は友枝町より3度は低いのではないだろうか、小狼は木々の間からキラキラ瞬く8月の日射しを眩しそうに見上げた。

『ね、小狼くんもそう思うでしょ?』
豊かな自然と同じ色をした瞳の少女が、なびく髪を撫で付けながら振り返る。

『…ああ、』
小狼がぶっきらぼうに返事をしたのを笑顔で返すと、さくらはまた緑の山々に視線を移した。

8月初めの、日曜日―

小狼は、木之本家の車の、後部座席にいた。
トランクには、一泊分の衣類が入っているスポーツバッグ。

フロントガラスには、ぐねぐねした木々のトンネルがいつまでも続いている。

小狼はその様子を、じっ、と眺めながら、この車の行く先を思い描いた。

さくらと、初めての旅行。

―ああ、今日から明日の夕方までずっとさくらと一緒にいられるんだ。

小狼はちらりと、さくらの横顔を盗み見みした。
―視線が、潤んだピンク色の唇に注がれる。

触ったら、柔らかそうで。

小狼は、ぼっと耳が熱くなるのを感じて、頭をプルプルさせた。


『…何、一人で百面相してやがるんだっ。』

ふいに、前から飛んできたとげのある言葉に小狼はむっとした。

『桃矢、そんな意地悪いわないで。…大丈夫?車に酔わない?』

ふんっ、鼻を鳴らす桃矢、と呼ばれた青年を、まあまあとなだめすかせて、助手席に座っていた優しい面持ちの青年が、冷たい缶ジュースを差し出した。

『ありがとうございます、雪兎さんっ』

さくらがニッコリと二人分のジュースを受け取った。


―つまり、こういうメンバーなのである。
さくらとの一泊旅行は、なんと2人の保護者の監視つき。

出発前から面白くなさそうな顔をしている桃矢と、たくさん思い出作ろうね、とニコニコしている雪兎、さくらの父親の代わりとして本日参加した小狼、そしてさくら。

その4人を乗せた青い車は、最近免許を取ったばかりにしては慣れた手つきの桃矢の運転で、今山間にある、温泉宿に向かっているのである。
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