オハナシ
□小狼♪Birthdayメモリアル♪
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『おしゃべり』
7月13日、放課後―
小狼くんの誕生日だから、と、みんなでケーキ屋さんに寄り道。
アイスティで乾杯して、おいしいケーキと、いつものおしゃべり。
女の子たちの話を、山崎くんと小狼くんは、やっぱりいつものように黙って聞いていて。
夕空が、明日の天気は晴れだよ、そう伝えていた帰り道―
『はうっ、千春ちゃんたち、先に行っちゃったよぉ』
私がおしゃべりに夢中になっているうちに、目の前の道を黄色と黒の棒がとおせんぼした。
カンカンカンカン…という音が、赤い目玉をキョロキョロさせて。
都会行きの電車が通り過ぎるよ、と教えてくれた。
先に歩いていっちゃった利佳ちゃんや知世ちゃんたちが、ここで待っているねっと、小さく手を振っている。
『…しかし、よくしゃべるなあ、』
ちょっとあきれたようにそういって、いつものへの字口。
私が面白かったことや、楽しかったこと、ぜんぶぜんぶお話したい。
一緒にいられなかったあの時の分も。
小狼くんは、そんな私の顔を横目で見ていて。
『だって、小狼くんにお話したいこと、いっぱいあるんだもん♪』
そう言ったら、
ふいっ、とふくれっつら。
相変わらずだね、そんな横顔にも…、はにゃん♪ってなっちゃう。
『…それで?寺田先生は、その後どうしたんだ?』
小狼くんがさっきの話の続きを訊ねる。
私は、そうそう、それでね♪と話しはじめようとした時…
ふいに触れた、指先―
突然、私の胸が高鳴る。
『それでね、…』
話したかったあのお話が、うまく口から飛び出さない。
…ううん、ただの偶然かもしれない、たまたま小狼くんの指が触れただけで。
心の中で、頭をぷるぷるさせて、ちょっと浮かんだ甘い予感をかき消してみる。
『そ、それでね、山崎くんが職員室に…』
また触れた、指と指―
何も言わず、ただ前を見ている、小狼くん。
いつもと変わらない、
なのに…私の指を掬い上げるように掴んで、ぎゅっ、と握った。
小狼くんの温度が、
とくんとくん、流れてくる。
私の胸が、きゅんと音をたてた。
―都会行きの電車が、スピードを上げて私たちの前を横切る。
今、手を繋いでいる様子を知らない、みんなの顔が。
通り過ぎる車両と車両の間から見え隠れしている。
私を黙らせるのなんて、きっとすごく簡単だよね…、そう思ってうつむいたら、繋いだ手と手。
頬が熱くなるのを、感じる。
この電車が行ったら、手を離しちゃうの、かな…
もっと、ずっと…
手を繋いでいたい―
―ふいに、耳元に響いた声。
『…走るぞ、』
小狼くんが私の手を引き、みんなが待つ踏切とは反対側に走り出した。
『ほえ?!』
私は訳がわからず、引かれるまま走る。
『み、みんなは?』
『いいんだ、』
今日はオレのしたいようにする、そう言って遮断機の方を一度振り返ってから、私をじっと見た。
『…もっと、さくらが話をしている姿がみたい。』
『ほ、ほえ?、話している、ところ?』
ああ、ぶっきらぼうにそう言ったら、さらに繋いでいた手をぎゅうっと絡ませる。
私の全部が、小狼くんに触れているその手に集中して…
私のドキドキが、耳のすぐそばで聞こえるのを感じる。
これじゃあ、も、もう…
何にもお話しできないよお…っ
私は、引っ張られるまま、黙って小狼くんについていくしかなかった。