オハナシ

□小狼♪Birthdayメモリアル♪
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 『サプライズ』

山崎組―

クラスメイト達は密かにそう呼ぶ。

友枝小学校出身の彼らたちは、いつも学校中の注目の的だ。

先生からの信頼だけは厚い山崎、誰でも気軽に声をかけてしまう千春、彼女の大人っぽさに惹かれない男子生徒はいないという利佳、学校一の文学少女の奈緒子、なんでも優雅にこなすお嬢様の知世、なんといっても、はじける笑顔が超絶かわいいといわれるさくら。

彼らは、気がつくといつもの場所に集まる。

友枝中で一番日当たりのいいテラスで。

昼休み、放課後・・・、なんとなくわらわらと寄ってはおしゃべりを弾ませるのだ。

その中でひときわ目立つ少年・・・
告白しようものなら、即、玉砕。どんなにかわいい女の子が廊下の向こうから投げキッスをしたとしても、ちらりともしない。

褐色の髪を無造作にかきあげる様子、腕を組んで何か思いにふける姿・・・本人は意識していないだろうがどれもスマートに見えた。大地の色をした意志の強い瞳に、一見クールに見える端正な顔立ちは、そう簡単に崩れはしないのだ。
それでいて、成績優秀、運動神経抜群の非の打ち所のない彼だが・・・

『李 小狼 様』

小狼は、またか、と、軽く舌打ちをした。
一人帰宅しようとした小狼は、さくらや他の友人達の姿が見えないことを少し不思議に思ったが、そんなことは特に変わったことではない。
彼らも部活や勉強に忙しいし、以前みたいに一緒にいる時間は少なくなっているのだ。

今日は帰るとするか、小狼はいとしい少女のことが気にかかったが・・・、あまり「彼女」の行動に、いちいち口を挟むのはよくない。できるだけ、控えようと思うようにしている。

―そんな時、自分の革靴の上にあったピンクの封筒。

小狼は、それが何かよく分かっていた。

7月はこれで何度目だろう―
おそらく、自分の誕生日にあわせての告白、が、多かったからかもしれない。

小狼は小さくため息をついて、封筒を開いた。

ピンクの便箋にはかわいい文字。

『16時に、裏庭で待っています。』
ただ、そう書かれていただけだった。

16時まで、あと5分―
呼ばれているのだから、行かなくてはならない。
生真面目な彼の性格では、それをすっぽかす、ということは出来ないのだ。
きちんとお話を聞いてから、自分にはもうずっと前から、一番に思っている少女がいるというしかない。
告白するほうも緊張するが、断るほうも緊張する。

なぜなら、自分は好きな人がいる、と、第3者に言ってしまうのだから。

それを言うたびに、小狼はなぜかどぎまぎする。

自分はさくらが好きだ、ということを、口に出して言うたびに、思い知る。

ああ、オレは・・・さくらのことが・・・、と。

小狼は覚悟を決めて、その手紙の主が誰かも知らずに、裏庭に向かった。


―人気のない校舎の裏庭への道。
今月はもう何回、この場所に呼び出されただろう、小狼は重い足取りでその先を見た。

制服を着た背の高い子―
小狼は胸が痛んだ。

・・・おそらく、小狼と同じくらいの身長だろう。
こちらに背を向けて立っている。

その子が振り向きもせず、小さい声で『李くん・・・』といった。

小狼は正直、妙な感じがしたが、大きく深呼吸するとその子の言葉を待った。

『スキデス・・・』
小さくそうつぶやいた言葉に、小狼は胸が痛む。

自分のことを思ってくれる人がいるー
でも、自分にはとっても大切な人がいるのだから・・・
その気持ちを、受け入れることができない。

『ごめん、オレ・・・』

次の言葉が出てこない。
だが、100発100中、次に言われる言葉はこれだ。

『他に、好きな子がいるの・・・?』

ああ、小狼はそう返事をして、シロツメクサの葉が揺れる大地に、視線を落とした。

―そして、やっぱり聞かれた。

『誰か教えて・・・そしたら、諦めるから・・・』

そうだ、オレはいつもここで宣言してしまうのだ、さくらのことが好き、と。
さくらにすら、数えるほども言っていないというのに。

『2組の木之本・・・』
そういっただけで、小狼の顔がプシューっと熱くなる。

な、なにやってるんだ、オレは・・・
恥ずかしさで、穴があるなら入りたいくらいだ・・・

すると・・・


『小狼くん・・・』

ガサガサと茂みが揺れたかと思うと、たった今オレの好きな人として名を言ってしまった、少女が顔を出した。

『さ、さくら!?』

何故ここにいるのか、帰ったはずじゃないのか・・・そ、それよりも・・・さっきの告白を聞いて・・・
驚きで目を白黒させている小狼に、さくらが言った。

『小狼くん、ごめんなさいっ!わたしっ、』

『ははははははっ』
今自分に告白をした背の高いその子が、振り返って高笑いをした。
そして、それは、見覚えのある目だった。

『や、山崎っ!!』

小狼は何が何やら分からず、しゅんとしているさくらとまだ笑っている山崎の顔を交互に見比べた。

・・・いつも、みんなで過ごすテラスで―

持ち寄ったお菓子を並べながら、山崎をはじめ、千春、利佳、奈緒子、知世、さくら。おなじみのメンバーが顔を揃える。

さっきの告白の件で納得のいかない小狼は、その友人たちに眉をしかめた。
『李くん、そんなしかめっつらしないでよ』
山崎がニコニコしながら言う。

コトの次第はこうだ―

最近、小狼が告白されるたびに『2組の木之本桜が好きだ、』といいまくっているらしい、そう聞いた山崎はさくらに訊ねた。

―李くんはいつも、木之本さんに好きだ、っていっているの?と。

その話を聞いて、首をぶんぶん振ったさくらは、ちょっとしゅんとして言った。

―小狼くん、私にはいってくれないの。

その話はさくらの耳にも届いていた。心無い人は、さくらにいやみのように、『愛されているわね〜奥さん』と言い捨てていくこともある。それはさくらにはなんともないが、でも・・・本当にあの小狼がそんなことを言うのか気になった。

―なら、確かめてみようよ。
山崎の細い目が一瞬開いたのを、さくらはまったく気づかなかった。

たまたま小狼がいなかったテラスでのナイショ話。

『・・・それで?』
小狼は、むっとした声で言った。

『衣装は千春ちゃんで、髪は利佳ちゃん、それから台本は奈緒子ちゃんで・・・私はビデオ撮影させていただきましたわ♪』
知世が悪びれえることなくにこにこしていった。
『・・・そして、本日の演目の、たった一人の観客は・・・さくらちゃんですわ♪』

みんなの視線がさくらに注がれる。
先ほどから一人、だんまりとしていたさくらが口を開いた。
『小狼くんっ、ごめんなさいっ・・・こ、こんなことになっちゃって・・・でも、その・・・ありがとう・・・』
さくらは顔を赤らめて小さくなっている。

小狼はその顔をみて、もう問い詰めるのはやめることにした。
『いや・・・いいんだ』

『ほら、木之本さんがあやまれば、李くんは許してくれるだろ?』
山崎が細い目をさらに細めていった。

『・・・もとはといえば、山崎くんがこんな企画を考えたからでしょう!』
『だって、今日はぁっ』
山崎はいつものように千春に頭をがくがくされていて。

『そうよ、今日は・・・』
利佳が、持ってきた手作りのマフィンを出す。
『今日はねえ〜』
奈緒子が新しいお話が始まる前のように、わくわくした瞳をみせながら何かを配っていた。

『今日は、小狼くんのっ、』
今まで黙っていたさくらが、みんなに合わせて声を出した。
その友人達の姿を、知世が熱心にビデオにおさめる。


『お誕生日おめでとう!李くんっ!』

パーン

拍手喝采とけたたましいクラッカーの音に小狼は驚いた。
・・・みんなの笑顔にも。

『みんな・・・』
オレの、誕生日を・・・?

小狼はふいに涙が出そうになる。
ー豪華な食事も、すばらしいプレゼントもない。

それどころか、自分はさっきはめられそうになったくらいだというのに。

昔から変わらない大切な友人たちが、こうして自分の誕生日をお祝いしてくれているのだ。

小狼はさくらを見た。目が合うのが分かっていたかのように、にっこりと笑い返す。
その笑顔に後押しされて・・・

『あ、ありがとう・・・』
―その言葉しか出てこなかった。

『来年は、どんなサプライズにしようかあ〜』
―楽しいことが好きな山崎はもうそんなことを言っている。

また来年も・・・
こうして、みんなと過ごせたら・・・

小狼は空を見上げる。

山崎組―

そう呼ばれている彼らの中、でひときわクールな彼が。


自分の口元が、いつの間にか自然にゆるんでいるのに気がついた。
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