オハナシ

□小狼♪Birthdayメモリアル♪
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 『おそろい』

―ぎゅう…

さくらは持っていた紙袋を握りしめた。

誕生日祝いに二人だけのランチに行こうと誘ったのはさくらだった。

―昨日交わした約束の場所はここ。

友枝町商店街のシンボルでもある噴水前。
多くの恋人たちが、ここでいとしい人の姿を、今か今かと待ち焦がれている。

今も昔も変わらない、お馴染みの景色―

さくらも小狼も、いつも繰り返される風景の一部分だった。

さくらは噴水のすぐそばに立つその人の姿に瞳を見開いた。

…褐色の少しうねりのある髪はいつものように柔らかそうで。
意志の強い瞳と凛々しいまゆ毛も何らかわりない。

すらりとした彼がはくと、どんなジーパンもなぜか品のよいものに見えてしまうから不思議だ。

だが…
さくらが釘付けになったのは、もっと別のところだった。


(しゃ、小狼くんの着ている服…私のプレゼントと同じ、だ…)

桃矢に教えてもらったスポーツショップに足を運び、さんざん迷って買った、若草色の半袖パーカー。

最近、小狼がよく着ているブランドのものだ。

店員さんは、この夏の新作ですよ、て言ってたのに…


さくらは、咄嗟にプレゼントが見えないように、後ろに隠した。


―噴水前の人物が、さくらの姿をとらえると、ふっ、と優しい笑みを浮かべる。

本人はきっと何気なく投げかけているであろう微笑みに、さくらはつい、はにゃん♪となって、駆け出そうとするが…

背中に隠した紙袋のせいで足が止まった。

(もお…、ずるいよ、小狼くん…)

そのぽかぽかする笑顔に、今すぐにも触れたいのに…

さくらはうつむいて、地面に瞳を落とした。

『…どうした?』

すぐに、さくらの上から駆け寄ってきた愛しいヒトの声が響く。

一番はじめに会ったら、何て言って渡そう…

昨夜の予行練習が頭をよぎる。

…お誕生日おめでとう、小狼くん!、これ、私が選んだの。小狼くんに似合うかなあっと思って。


さくらは、その言葉をのみ込んでしゅんとなった。

瞳を心配色に染めて覗き込む小狼と、目の前にあるパーカー。

…やっぱり、おんなじ、だ。

もしかして、見間違いかもしれない、そんな一瞬の望みも砕かれた。

『どうしたんだ?』
さくら?、ますます眉をひそめた小狼が、さくらの肩に優しく触れる。

ふいに訪れた、その温かみが、さくらの奥にひそめていた涙を誘った。

『しゃ、小狼くぅん…っ』

ぽろぽろこぼれた真珠のような涙に、小狼は訳がわからず、ぎょっとした。



―ペンギン公園のブランコで。

さくらは、小狼から借りたハンカチで、すんすんと鼻をすする。

小狼の手には、あの紙袋―

がさがさと中から取り出して開いてから、小狼は笑って言った。

『さくら、ありがとう』

『…で、でも、小狼くんが今着ているのと、同じだよっ』

さくらは赤い鼻をこすって、小狼を見上げた。

『いや、いいんだ。さくらがオレのことを考えて選んでくれたものだから』

そして、一番見たかった笑顔で言う。

『…嬉しいよ』

あ…

その笑顔が、見たかったんだ―

何度も足を運んで選んだお洋服。

これを着ている小狼くんに会いたかったの。

そうだっ、…思い出したのはさっきのみ込んだ、あの言葉―


『…しゃ、小狼くんっお誕生日おめでとうっ!
この服、私が選んだのっ!小狼くんに似合うと思ってっっ』

―練習通り、言えたかな?

矢継ぎ早にそう言い切ってから、さくらは薄目を開けて、彼の様子を伺う。


『ありがとう。』

もう一度丁寧にそういうと、小狼は自分が着ていた若草色のパーカーを脱ぎ、さくらのそれに袖を通す。

『小狼くん…?』

『…こっちの方が、着心地よさそうだっ』

そう言って、いつものようにそっぽを向く。

ううん、同じ服だよ?

そう、いいかけたさくらの肩に、小狼は今脱いだばかりのパーカーをかけて言った。

『…こっちはもう必要ないから、さくらにやる。』と。

『え?』

『ユニセックスだから、女性も着れる。だから、これはさくらが着ろ。』

そういって、自分のパーカーのジッパーを上げた。

『…いいの?』

ああ、小狼は照れ隠しのように、勢いをつけてブランコを揺らし…飛ぶように降りて先に歩き出す。

さくらも、急いでそのパーカーに袖を通した。

パーカーからは小狼の甘酸っぱい匂いとぬくもり―

両手で頬を包んで、今日一番のはにゃん♪状態になったさくらは、先に歩く小狼をあわてて追いかける。

おそろいの、パーカーで。

『小狼くんっ、お店はそっちじゃないよおっ!』
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