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□ほしにねがいを
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―夕方から強く吹いた南西の風が、夕空を押し上げる。
見る間にふくらんでいく黒い雨雲たちが、夜空に散らばった星たちの退場を促していた。
『はうっ!あめがふってきちゃったよお・・・』
窓から聴こえる雨音に、さくらは眉をしかめた。
3人で囲む、夕食は天の川に見立てたそうめんだ。
『あめがふったら、おりひめさんとひこぼしさん、あえなくなるんでしょ?』
さくらが、ピンクのお箸を置いて、泣きそうになりながら言った。
庭の外には、みんなで作った七夕飾り―
3つの願いごとが、雨粒に踊っている。
『そうだな、』
桃矢はぶっきらぼうにいった。
今日、担任の先生が読んでくれた七夕のお話は、そうだった。
『そうでもないみたいですよ、』
そうめんをつるつるとすすって、藤隆が笑う。
『・・・織姫であること座のベガ、彦星である、わし座のアルタイルが、年に一度逢っているところを誰にもみられないように、と、雨を降らせているという一説もありますから・・・』
『じゃ、おねがいごと、かなう?』
そうですね、答える代わりにあたたかいまなざしがさくらを包んだ。
7月8日早朝―
桃矢は、いつもよりも強い日差しで目が覚めた。
―今日は、いい天気、みたいだな。
桃矢は眠い目をこすり、リビングのカーテンを開ける。
窓の向こうには飾り付けをした笹が、昨日と同じ姿でたっていた、ような気がしたが・・・
『―あれ?』
桃矢は窓を開けて、庭に降りる。
雨の後の、すがすがしい光の中にたたずむ大きな笹に。
―へったくそな、テルテル坊主と、さくら、とかかれたピンクの小さな傘。
そして自分が書いてつるしたはずの短冊には、どうみても星とは思えない金と銀の折り紙―
『アイツ・・・いつのまに・・・』
それは、桃矢の短冊が濡れないようにと、一晩中見守っていたようだった。
―桃矢はキッチンに駆け込むと、急いで朝食の準備を始めた。
『うわああ♪ほんとにねがいごとがかなったよっ!』
いつもの朝、木之本家のダイニング―
幼稚園の制服に着替えたさくらが、感嘆の声をあげた。
―ほこほこした食卓に並ぶ、笑顔とおいしいごはん。
ケチャップ味のチキンライスをキレイに包んだオムライスの上には、ケチャップでかいた大きな星が光っていた。
『さくらね、たなばたのねがいごと、おむらいす、にしたんだよ、』
おにいちゃん♪、さくらがニコニコしている。
『いらないなら、食うなっ・・・』
『たべるぅ♪』
さくらは、いただきますっ♪と手を合わせると、オムライスにかじりついた。
―庭の手入れをしていた藤隆が見上げた先には、輪つなぎと青い短冊。
桃矢、と書きなぐられた名前に、
『オムライスが上手に作れますように。』
―桃矢くん、そのネガイ、かないましたか・・・?
藤隆は、はにゃん♪とほっぺたが落ちそうなさくらの笑顔を見て微笑んだ。