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□ほしにねがいを
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そのそばでは、先ほどから藤隆が丁寧にすずりをすっている。
もういい頃合いでしょうか、と、藤隆は筆を取り出すとその墨を使って、すらすらと淡く黄色がかった白い短冊に願いごとを書いた。
『ねえ、おとうさんは、なんてかいたの?』
愛する人によく似た面影の娘に、ふわり、笑って、父である藤隆が、さくらの前にみせた短冊には…
「家内安全」と書かれていた。
『…ほえ?なんて書いてあるの?』
さくらは蜂蜜色の髪を揺らして、足をパタパタさせながら小首をかしげた。
『…かないあんぜん、だ。…まあ、家族みんなが元気でいられますように、てことだな。』
習ったばかりの漢字ばかりだ、桃矢は先ほどの輪飾りから目を離さずに、説明する。
『かないあんぜん、かあ…』
まあ、そういうことですね、父の優しい眼差しが答えていた。
そして、もう一度すずりに視線を落として聞いた。
『さくらさんは、どんな願いごとにしますか?』
・・・・
ネガイゴト…?
さくらはまた首をかしげる。
『ネガイゴトって、なあに?』
『…こうなってほしい、とか、こうなりたいとか…自分のやりたいことだな』
桃矢の脳裏に、さきほど書いた自分の願いごとが浮かんだ。
『さくらさんの好きなことでも、何でもいいんですよ。』
まだ字の書けないさくらの代わりに、父が筆をとる。
さくらはその様子を、じい・・・と見ながら一生懸命考えた。
・・・さくらの、スキナコト…?
あっ♪
『・・・おとうさんっ、さくらに、じをおしえてっ!じぶんでかいてみたいの!』
『もちろんですよ、・・・じゃあ、さくらさん』
そういって、墨を含ませてある筆を手渡した。
『え〜っと、・・・』
さくらは一文字ずつ口で唱え、小さな指を折りながら、
『うんと、うんと… はじめは、「お」!』
『「お」ですね…』
深くうなずいた藤隆が、小さいなさくらの手を取り、練習用の半紙に大きく書いてみせた。
白い紙に、私のネガイゴトがひとつ刻まれる―
・・・さくらはとてもワクワクした。
『じゃ、じゃあね、つぎは・・・、「む」!』
『…難しいですよ、こう書きます。』
父はまたさくらの手と一緒に、半紙にひらがなを書いてみせた。
『はにゃん♪…じゃ、つぎは「ら」!』
『―はい。』
一緒にひらがなの練習をする親子の様子を見て、桃矢は目を細めた。
単純なヤツ―
それは、おまえの好物だろう・・・
桃矢は、さっきランドセルにしまった、願い事を思った。