お題小説
□キミに伝えたい想い
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カタン…
小狼は走らせていたペンを休め、ふっ…と息を抜いた後、先ほどから行った来たりする薄いカーテンの先にあるものを目に映す。
『月が…綺麗だ』
座り心地良い椅子から立ち上がり、窓辺に引き寄せられる。
香港のしっとりとした夜風が小狼の髪を撫でていく。
霞みかかった月の灯りが、窓枠に添えた小狼のあたたかみのある手を照らして…
思い出す。
…いつかした指切り。日本式のおまじないか。
『約束だよ♪』
そういったアイツは、自分の小指とオレの小指を絡ませた。
…そんなこともあったな。
アイツがアノヒトに思いを告げた後…
オレの前で涙を流し…小さく震えていたアイツの肩に触れた。
…どうすればいいかわからずに…
ただ泣く場所を貸した…
最後のカードをさくらカードに変えようとするアイツのために、魔力を込めて星の杖を支えたオレの手。
…たいして役に立たなかったな…
月の光に浮かび上がったオレの手には、アイツと一緒に過ごした記憶が刻まれていた。
チカラを持つものはより強いチカラを持つものに惹かれるのだが…
でも違う。
オレはアイツがアイツだから、好きになった。
泣いたり笑ったり、怒ったり一生懸命になったり…
アイツがいるだけでアイツのことを思うだけで、心の奥底まであたたかい気持ちが流れてゆく。
…今頃、きっと空を見上げている。
そんな気がした。
ハチミツ色の髪の毛がすべすべの肌を縁取り、
翠色の大きな瞳には、この銀色の月が映っているだろう。
小狼は、胸が締め付けられるくらいの強い思いを、
どうしていいのかわからず…
大切なヒトの名を口にした。
『……』
急に机の上の携帯が着信を知らせた。
小狼はあわてて手を伸ばす。
『もしもし?小狼くん?』
今さっきまで思っていた愛しいヒトの弾んだ声。
『なんとなく小狼くんが呼んだような気がして…電話しちゃった』
彼女にはかなわない。
『ああ、呼んだよ。…さくら』
何千回も何万回も
繰り返そう
キミの名前を。
いつまでも、この身体が命尽きるまで。