10/09の日記

01:36
また明日
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君が、愛しい5題〜5〜

『送ってくれて、ありがと。』
『…ああ、』

ぴょん♪、木之本家の少し高くなっている門扉の階段を勢いよくかけ上がったさくらは、ひらりとスカートをひるがえして、後ろで見送る少年と笑顔をかわす。

毎日、繰り返されるさよならの挨拶は、いつもこうだった。

―ありがとう、の言葉と、照れたような短い返事。



もう少し一緒にいたい…、そんな切ない雰囲気を、

木之本家から流れてくる温かい料理の匂いが、

桃矢のむくれた声が、

優しく微笑を浮かべた藤隆が。

いつも二人を包み込み、そしてさよならの時間を告げた。


『…今日は、お兄ちゃんが夕食当番なんだ、』

『知ってる。』
…今夜はさくらの大好物であるオムライスだろ、
卵の下に入れるのだろう、チキンライスを手早く炒める音が聞こえた。

『…小狼くんも、食べていかない?』
離れがたいさくらが、おずおずと彼を誘ったが、
『…いや、いい。今日は帰るよ。』
そう言って小さく片手を上げた。


それでなくても、さくらの時間の大半は、自分がもらっている。
さくらが家族の絆を大切に想っているのを知っているからこそ、
できるだけ団らんの時間は邪魔をしないようにしたい。

…本当は全部独り占めしたいくらいだが。

『…そっかあ、わかった…今日はありがと。…おやすみなさい。』しゅんとしたさくらがそう言って小さく手を振った。

『ああ、…おやすみ、』


パタン、
さくらが暖かい灯の中に帰っていくのを見届けると、踵を返して帰路につく。


―別れても、

手のひらにはさくらのぬくもり。

瞳のはしっこに映る華奢な残像。

耳に響く、鈴の音みたいな愛らしい笑い声。

「さくら」を冷たい自分の家まで持って帰るのは切なすぎて。

あ、と気づく。

そうだ、
あの約束を交わしていない―


小狼は木之本家を振り返り、さくらが吸い込まれて行ったドアを見つめた。

ふと、
いきおいよく木之本家の扉が開く。

ハチミツ色の髪をなびかせたさくらが顔を覗かせると、小狼は驚いて慌てて目をそらした。

『小狼くんっ!』

『…ど、どうした!?』
ふいに現れた愛しい少女の姿に、胸が高鳴る。

『わ、わたし…まだ言ってなかったっ!』
さくらが同じ気持ちなのが嬉しくて…、小狼は、ふ、と口元に笑みを浮かべると、さくらの瞳を見つめて言った。


『…また、明日。』

―明日もまたキミに会いたい、
間違いなく、彼の瞳はそう物語っていたから。

さくらは裸足で飛び出し、門扉に駆け寄ると、

『う、うん、また…明日!』

大きな声で、約束を交わした―



毎日、繰り返されるさよならの挨拶は、いつもこうだった。

―ありがとう、の言葉と、照れたような短い返事と。


『また明日、』

心と心が指切りする小さな約束…



☆コメント☆
[あとがき] 10-09 01:39 削除
別れがたい二人(*^m^*)
今日で、君が愛しいのお題は終了です。
ひとつアップされていないのは、新作に使用する予定です♪

[麻瑠] 10-10 12:47 削除
またきゅんとなりました!
二人にとって少し寂しい場面ですよね

[はまだようこ] 10-10 22:50 削除
>麻瑠さま
出来ることなら【鏡】のカードを発動して、朝まで一緒にいたいんだけど…
小狼はそれを許さないような気がします(笑)さくらの家族も、彼にとってきっと、大切な存在だから。

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