小説@

□祭りにて
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「のぞみ〜、置いて行くぞ」

「ちょっと待ってよお!」

置いてかないで〜っ、とのぞみは今にも泣き出しそうな声で懇願する。

その声を聞いた仲間たちはやれやれと、玄関でのぞみが来るのを待った。

ちょっとして、出てきたのは浴衣姿ののぞみ。

「お待たせ〜、ごめんね遅れちゃって」

顔の前で両手を合わせ、待たせたことを詫びた。

それを合図に、7人のメンバーは祭りの会場へと歩き出した。



会場に近づくにつれ、浴衣を着た人が多くなり人も多くなる。

「う…わ…」

会場に着いた時には、おしくらまんじゅう状態だった。

「のぞみ、あんた、はぐれない様にね」

「わ…分かってるよ、りんちゃん」

のぞみは必死にりんの浴衣を裾をつかんでいた。

しかし、

「お…っとと…」

人が入り乱れている所に足を取られ、よろけてしまう。

そして、りんの浴衣の裾も放してしまった。

体制を立て直し、前を見ると…既にりんの姿はない。

「あ…あれ、りんちゃん?」

うらら?

こまちさん?

かれんさん?

ナッツ?

そして…

「…ココ?」

きょろきょろとあたりを見回してみるが、行き交う人は知らない人ばかり。



しばらく人の流れに沿って歩いていたが、誰も知っている人はいない。

歩き疲れ、のぞみは屋台裏の雑木林の中にあるベンチに座っていた。

「みんな…どこいっちゃったんだろう…?」

はぐれてしまって、心細くなってきた。

それと同時に、せっかくみんなで楽しむはずだったお祭りに、皆を心配させているのではないかと思うと…

「ごめんね、みんな…」

同時に申しわけなくなってくる。

のぞみは、ベンチの上で膝を抱えた。

目の前には、屋台が立ち並んでいるのにちっとも魅力的には見えない。

おいしい食べ物だってたくさん置いてあるのに…

笑って祭りを楽しんでいる人達。

何だか、自分だけが取り残されたような感じがする。

「みんながいないと…楽しくないよ…」

そう思った瞬間に頭に浮かんだのは、ココの姿だった。

「頑張って、浴衣を着てきたのに…」

見てくれるはずだった人がいないと、意味がないのに…

段々と寂しさが増し、ため息と同時に悲しさまで出てきた。

「………ココ…」

一番会いたい人の名前を呼ぶ。

返事なんかあるはず無いのに。

呼ばずにはいられないんだ。

お願い、あたしを…

あと一息で涙がこぼれそうになった瞬間。

いきなり視界が暗くなった。

そして、同時に背に感じたのは誰かのぬくもり。

「見つけたぞ」

そう言った声。

その声は確かに一番聞きたかった声で。

のぞみはすぐに誰か分かった。

目隠しは、ココの手だと言うことも分かった。

一刻も早く、ココがいるんだと確認したくて、のぞみは後ろを見ようとした。

しかし、のぞみの目を隠すココの手が、頭を動かせないよう固定させていた。

「ココ?」

目隠ししていても、声を聞いたら誰だかばれてしまうのに…

どうして手をどかさないのか、と不思議がるのぞみに、ココはのぞみの視界をふさぎながら言った。

「のぞみ、はぐれたらダメじゃないか。心配したよ」

「ごめんなさい…」

「怪我とかしてないかい?」

「大丈夫…大丈夫だけど…」

「大丈夫だけど?」

「寂し…かった…」

のぞみの言葉を聞き、ココはゆっくりとのぞみの目を覆う手を離した。

そのまま、体に腕をまわし背中からのぞみを抱きしめる。

ココの方を見ようとしていたのぞみだったが、ココの抱擁に身体を固くする。

「はぐれた君が悪い」

寂しかったと言ったことに対してか、それとも、その罰としてのぞみを抱きしめているということなのか、どちらの意味かは分からない。

けれど、聞こえてきたのは少し意地悪でも、優しい声。

その声に先程まで寂しさを感じていたのぞみだったが、今は微塵もそんな事を感じなかった。

むしろ、温かい気持ちさえする。

「うん、ごめんなさい」

今度は笑顔で、だけど反省はしながらココに伝えたのだった。

「行こう、みんな待ってる」

そう言って、背中からココの重みが離れようとする。

それをのぞみは引き留めた。

「待って、ココ」

「ん?」

「もう少しだけ…こうしていたい…」

きっと自分は大胆なことを言っているのかもしれない。

けれど、ココが来てくれたことであたしは寂しくなくなったんだ。

その温もりを、もうしばらく感じたい。

ココは…あたしの言葉をどう受け取るのかな?

ココからどんな反応が来るのかわからなくて、怖くて、のぞみは体に力を入れる。

それと同時に、自分を抱きしめるココの腕の力も強くなった。

「もう、離れるなよ…」

「うん…」

しばらく、2人はお互いのぬくもりを感じていたのだった。



2009・8・18
 
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